- #1
- #2
スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「あのとき日本のメディアは悲観的すぎた…」ラグビーW杯、日本代表が負けた後の準々決勝が“神回”だった「まるでお通夜…フランスが泣いた夜」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/10/19 11:02
準々決勝、南アフリカに1点差で敗れたフランス。終了直後、呆然とするフランスの主将・デュポン
トゥールーズに戻る日、私は仕事をしたかったので1等車を予約していた。ところが予約した車両の電源が入らないという。フランスの「インターシティ(アンテルシテ)」と呼ばれる特急は、席の表示がデジタル方式なので、電源が入らないと、どの席に座ればいいかが分からない(日本のように1から順番になっているわけではなく、私は最後まで規則性を見出せなかった)。そして車掌が宣言する。
「この車両は使えませんので、移動していただきます」
ホームに降りると、別の車掌が手書きで代替の席を指定していく。私の新たな席は8号車の88番だった。末広がりで良い、と思ったのは日本人の私だけだろう。ところが、8号車は2等だった。アップグレードならぬ、ダウングレードだ。
そしてさらなる恐ろしいことが起きた。次のアルルで、その席の予約をしていた人が乗り込んできたのだ。すっかりフランス列車に猜疑心を抱いている私は、そんなことがあるんじゃないか――という悪い予感がしていた。それが、当たってしまった。
車両を移動して車掌を捜し、Google翻訳を突きつける。
「トゥールーズまで、確実に空いている席はないのか!」
車掌は「本当に困りましたね」と言いながら、こう言い放った。
「とりあえず、空いてるところに座っててください」
ニーム。モンペリエ。私は追われるように席を変えていった。
やっぱり、マルセイユが絡むとなにかが起きる。
マルセイユには、気をつけろ。
<“神回”の準々決勝【前編】から続く>