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最低賃金は月収27万円なのに…まさかの逆ギレ「休憩なんだよ!」ラグビーW杯、現地記者が味わった“絶望感”「日本人とフランス人、働き方の差」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2023/10/02 17:11

最低賃金は月収27万円なのに…まさかの逆ギレ「休憩なんだよ!」ラグビーW杯、現地記者が味わった“絶望感”「日本人とフランス人、働き方の差」<Number Web> photograph by Getty Images

パリの秋、美しい街並み。ラグビーW杯、フランス現地記者が味わった“絶望感”とは?

 窓口には板が置かれ遮断、その係員は持ち場を離れたのだ。

 あとひとりに迫っていたアイルランド・サポーターが、ついにキレた。

「は? なんでなんだ! こんなに並んでいるじゃないか!」

 ところが、その窓口職員は逆ギレして言い返している。フランス語なので分からなかったが、私はこう言っていると推測した。

「休憩なんだよ! 休憩!」

 職員の逆ギレに、並んでいた各国の旅人はついに沸点を超えた。

「こんなに並んでいるのに、なんとも思わないのか!」(これは英語だから聞こえた)

「××××!」(謎の言語)

 フランスをめぐるエッセイを読んで、目の前で職員が昼休みに入るというのは起こり得るとは理解していた。しかし、実際に目の前で起きるとは!

 私も呆れたので、吠えた。頭に浮かんだのは、かつての明治大学野球部監督、島岡吉郎の言葉だった。

「なんとかせい!」

 封鎖された窓口には、交代の職員がやってくる様子もない。窓口はついにひとつになった。まだ、30人ほどの人が並んでいる。

 これは、詰みだ。徒労感と絶望感に襲われ、ちょっとだけ知恵を働かせて小さめの隣駅まで歩いていくことにした。6号線の隣、Edgar Quinetの駅には誰も並んでいなかった。こちらも窓口は不在だったけれど。

“5万円台”のホテルしかなかった事情

 こうした事態に遭遇し、私は感じた。

 フランス人は仕事が苦手なのではないか、と。

 楽しむのは超一流だ。しかし、仕事となると途端にクオリティが落ちる。

 パリの夜にはアイルランド対南アフリカ戦を取材したが、試合の最中に翌日のオーストラリア対ウェールズ戦の取材許可が24時間前になって認められた。

 こんなことは、他の国では考えられない。

 プールCの大一番、これは是が非でも行きたい。しかし、場所は「食の都」と呼ばれるTGVで2時間ほどかかるリヨンだ。パリからリヨン行きの列車、そして宿を予約しなければならない。結局、宿は駅近のビジネスホテルを5万円台で予約せざるを得なかった。

 事務作業、それによる判断が遅いために、どれだけ記者に負担がかかっているのか、まったく分かっていない。

では、フランスの最低賃金は?

 この労働意識、あるいは職業倫理といった価値観の低さがどこから来るのだろうか。これはたいへん興味深い問題だ。

【次ページ】 では、フランスの最低賃金は?

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