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最低賃金は月収27万円なのに…まさかの逆ギレ「休憩なんだよ!」ラグビーW杯、現地記者が味わった“絶望感”「日本人とフランス人、働き方の差」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2023/10/02 17:11

最低賃金は月収27万円なのに…まさかの逆ギレ「休憩なんだよ!」ラグビーW杯、現地記者が味わった“絶望感”「日本人とフランス人、働き方の差」<Number Web> photograph by Getty Images

パリの秋、美しい街並み。ラグビーW杯、フランス現地記者が味わった“絶望感”とは?

 開幕戦のフランス対ニュージーランド戦も、来なかったらしい。英国か、ニュージーランドの記者は怒り狂い、メディア担当者に「お前の自腹でタクシーを呼べ!」と怒りを露わにしていたという(日本人記者のみなさんは、おとなしく待っていたそうです)。

 ここフランスでは、想定しなかったことに直面せざるを得ない。

カオスな行列…「ここから10分」のウソ

 パリに上った9月23日には、こんなことがあった。

 トゥールーズからパリのターミナル駅のひとつモンパルナス駅に到着し、地下鉄で利用できる旅行者向けの「navigo easy」という交通系のカードを買うことにした。ただし券売機で買うことはできず、購入当初だけ、有人窓口で買う必要があるらしかった(これは私の確認不足で、券売機で買えますよとIカメラマンが教えてくれた。ちなみに彼はトゥールーズで料理の腕を轟かせていた)。

 ところが、窓口に行ってみるとそこには大きなカバンを抱えた旅行者が長蛇の列を作っているではないか! 30人はいた。その夜に試合があるアイルランド、南アフリカのサポーターも混じっている。

 まずは、大局を俯瞰しよう。窓口はいくつある? 両サイドに2つずつ。目算で進みの早い列に並んだ。

 しかし、行列自体がカオスだった。「急ぎだ、急ぎなんだ!」と言って順番を守らずに5人家族で殺到する人がいた。行列には「ここから10分」という表示があるが、これは真っ赤な嘘だった。

 並んでいるうち、だんだん耐えられなくなってきた。なぜなら、入口では整列が求められるが、肝心の窓口前が「アピールしたもん勝ち」になっていたのだ。細い川が大海に出た瞬間、一気に広がるイメージである。

日本人とフランス人の違い

 私は万国の労働者諸君に問いかけたかった。

 諸君、規律とはなにか?

 秩序とはなにか?

 取材を続けてくると、世界各国によって、規律と秩序のバランスが違うことに気づく。似ているようでずいぶん違う。中国は秩序こそ保たれているが、規律は感じられない。整列乗車なんて、ない。順番を守っていたら、バスに乗り損ねます。

 フランスはどうか。秩序はない。規律は……ありそうなのだが、それはあくまで個人の規律、規範に則っている。

 日本的価値観では、職業となれば個性を殺し、集団に合わせることで秩序を保つ。どこか、私はフランス人にそれを期待していた。しかし、モンパルナス駅の窓口で驚愕の事態が待っていた。

まさかの逆ギレ「休憩なんだよ!」

 あと5人ほどに迫ったときのことだ。ひとつの窓口の係員が、突然消えた。

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