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松島幸太朗まだノートライだけど「4年前よりチームを助けている」大西将太郎が期待する《ラグビーW杯運命のアルゼンチン戦》理想の展開は?
posted2023/10/07 11:02
text by
大西将太郎Shotaro Oonishi
photograph by
Kiichi Matsumoto
勢いづいたら止められないサモアには、とにかく先手を奪ってプレッシャーを与えたかった。3点、あわよくば7点――日本はそれを見事に遂行し、最終的に一度も逆転されることなく80分をいいマネジメントで終えた。先制点となったピーター・ラブスカフニのトライがすべてだったと思う。
ただ、残り20分で2本のトライを奪われたことは気になる点だ。サモアも負けられない試合で、すごい気迫で日本陣地に侵入してきた。しかしこういった競り負けは次のアルゼンチン戦では命取りになる。そこで、心強かったのがマツ(松島幸太朗)の発言だ。
「ぬるい」チームを俯瞰する松島の言葉
試合後、TVカメラの前で「ぬるい部分がある」と言い切った。これは“自分たちはもっとできる”という自信の表れで、とてもいいマインドだと思う。8強に進んだ2019年W杯の経験者で、勝ち方を知っているマツがチームにあえて釘を刺したのだろう。
マツは若い頃から落ち着いていて、どんなことにも動じない強さがあった。言葉数はそこまで多くはないタイプだが、人のことよく観察している。驚かされたのはリーグワンのプレーオフ準決勝、スピアーズ戦。自陣でペナルティーをもらうと、マツはすぐに敵陣逆サイドに空いたスペースへ大きく蹴り出した。アイコンタクトで走り込んだWTBテビタ・リーがそのままトライ。相手にリードされ、かつ1人退場していた苦しい時間でのスーパープレー。技術もさることながら、常にチームを、状況を俯瞰的に捉えているからこそ実行できる判断だった。そういう姿勢が発言にも表れているのだと思う。
高校時代から全国大会の決勝を経験し、卒業後には南アフリカに留学した。もともとの冷静沈着な性格に加えて、そういった経験の積み重ねがさらに心の芯を一層強くしたように感じる。今回のW杯に向けて、世界のトップ選手が集うフランスリーグ『TOP14』のクレルモンへ移籍し、身体を見直し、タフさを増した。マツのような豊富な経験をした選手がバックスリーにいることはラグビーにおいては本当に大きい。いるか、いないかで安心感がまったく異なることは試合を見ているだけでもわかると思う。どんな状況でもしっかりと一貫性ある仕事ができるから、大事な試合では必ず15人に選ばれるのだ。