スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER

最低賃金は月収27万円なのに…まさかの逆ギレ「休憩なんだよ!」ラグビーW杯、現地記者が味わった“絶望感”「日本人とフランス人、働き方の差」 

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2023/10/02 17:11

最低賃金は月収27万円なのに…まさかの逆ギレ「休憩なんだよ!」ラグビーW杯、現地記者が味わった“絶望感”「日本人とフランス人、働き方の差」<Number Web> photograph by Getty Images

パリの秋、美しい街並み。ラグビーW杯、フランス現地記者が味わった“絶望感”とは?

 Uberで帰ることにした。海外でタクシーに乗ることは、なくなった。Uberであれば、乗車前にこちらの目的地を知らせ、金額も予め決められてクレジットカード決済ができる。遠回りされてぼったくられるリスクがほぼなくなる。

 私は、文藝春秋写真部員Mくんと、メディアワークルームが閉じる深夜1時半まで仕事をしていたマドモワゼルふたり、SさんとNさんと一緒に帰ることにした。

 なんとかUberの運転手が決まり、車が来るのを待っている間、余計な声が耳に入ってきた。信号待ちの白タクがちょっかいを出してきたのだ。

「Uberを待ってるってか? どうせ30分や40分待っても来ないぜ! 目の前の俺の車に乗ればすぐに帰れるぞ!」

 白タクの場合、途中で仲間が乗り込んできて恐喝、身ぐるみはがされる危険性がある。近寄ってはいけない。とにかく無視を決め込むと、今度は白タクがキレ始めた。

「そのまま、そこに立ってることだな! 結構なこった。イングランド万歳!」

「イングランド」のひと言に血が頭にのぼり、睨みつけようと思った瞬間だった。

 “Securite”と書かれたベストを着た男性がこちらに向かってきた。仲裁か? と思っていると、「気にすんな」とひと言残して、4人分のバゲットサンドを渡してくれた。警備員たちの軽食が余っていたのだろう。それを分けてくれたのだ。涙が出そうだった。

「Merci!」と叫ぶと、彼は背中を見せながら右手を挙げて応えてくれた。

 二元論は好まないが、この世には善人と悪人がいると思う瞬間は存在する。

 MくんはUberのなかでバゲットを食べ始めた。

「これは美味しいです」

「お前の自腹でタクシーを呼べ!」

 ニースのメディアバスのドライバーは、特殊だったと思われる方がいるかもしれない。しかし、これはフツーのことなのだ。

【次ページ】 「お前の自腹でタクシーを呼べ!」

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
ラグビーワールドカップ

ラグビーの前後の記事

ページトップ