炎の一筆入魂BACK NUMBER
《陰のキーマン》「いてくれて助かる」首脳陣の信頼も厚い第三の捕手・磯村嘉孝が「腹をくくって」放つ存在感
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/09/25 11:03
4月30日の巨人戦、9回に代打出場した磯村は、今季唯一(9月24日時点)の本塁打を放った
初昇格から、スタメンマスクを被ったのは2試合しかない。5月18日DeNA戦を最後にスタメンの機会は巡ってきていない。ここまで32打席に立ち、マスクを被った試合は9試合しかない。
チームが23試合戦った6月は、4日ソフトバンク戦の6回に代打出場した1試合のみだった。二軍には守備力に定評のある石原貴規も控える。磯村の実戦勘を養うという意味では、定期的に二軍に降格させる運用でもよかったように感じられる。
だが、朝山東洋打撃コーチはかぶりを振る。「出番が少なく申し訳ない」と前置きしつつ、「第三の捕手」だけでない存在価値を認める。
「バントもできるし、ここぞの場面でしぶとい打撃もできる。なかなか出場機会はないんだけど、外せない選手。試合間隔が空いて難しい面もあると思うけど、期待通りのことをやってくれる。いてくれて助かる」
首脳陣の信頼もあり、磯村は一軍に居続けた。負傷明けの初昇格から出場選手登録を抹消されたのは7月10日から21日までの1度のみ。球宴休暇もあり、ベンチ入りできなかった試合は6試合にとどまった。それだけベンチ入り25人から磯村を外す選択が難しいということだ。
ワンチャンスをものにする難しさ
9月14日のヤクルト戦では、3点ビハインドから1点差とした8回1死満塁で代打起用され、決勝のセンター前ヒットを放った。さらに9月15日の阪神戦では同点の8回無死一塁から代打出場し、初球をきっちり一塁側に転がして“ピンチバンター”としての役目をまっとう。直後の代打・松山竜平の決勝打をお膳立てした。
「この立場で生き残るためにはやっていくしかない。一軍でプレーするためにも、ワンチャンスで結果を出さないといけない」
注目を集めるタイムリーヒットなどの打撃では、一定の失敗も許容されるかもしれない。だが、守備や犠打では失敗が許されない。当たり前のようにやることが、どれだけ難しいことか。周囲からは“チャンス”と見られていないことをモノにするのは容易ではない。
決勝打を放った14日のヤクルト戦では8回裏からマスクを被り、島内颯太郎、栗林良吏と勝ちパターンを落ち着いてリード。一人の走者も出さずに勝利の輪をつくった。
「腹をくくるというか、根拠のない割り切りができるんです。もう、やるしかないなと」
ベンチワークを含めた総合力で戦ってきた新井カープを陰で支えてきた。そして、この先に待つ5年ぶりのポストシーズンでも、腹をくくる出番が巡ってくるに違いない。