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「ゴールマウスは存在しない」浦和レッズ・西川周作の“すべて”を変えた名GKコーチの教えとは?「ハイボールの処理が一番楽しいんです」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byMasashi Hara/Getty Images
posted2023/09/18 11:05
今季のJ1で第27節まで全試合に先発し、12試合を無失点に抑えている西川周作。37歳にして迎えた“覚醒”の裏には、名GKコーチとの出会いがあった
――ゴールマウス? ありますよ(笑)。
「ありますね(笑)。でも、ゴールマウスを意識しすぎると、GKはそれを守らなくちゃいけないと、魔力のように後ろにへばりついてしまう。サイドからクロスボールが飛んできたときに、現実のゴールマウスだけを意識していたら、死角が生まれてしまいますよね。でも、ゴールライン上ではなく、ゴールラインに対して垂直にゴールマウスがあるとイメージできれば、体の角度を変えてクロスボールに対応できる。その段階で処理してしまえば、シュートを打たれることはない」
ポジショニング、ステップ…覆されるセオリー
――ピッチを俯瞰する思考は従来から選手に求められてきたものでしょうが、ゴールマウスを自由に動かすというか、「存在しない」という考え方は一歩先ですよね。
「ボールよりも、まず先にスペース。『この空間をいかに守るか』を教えてくれている。ジョアンのような指導法は初めてでした。ほかにも、ポジショニングについてのテーマもあります」
――GKは「5:5」のところに立つのが良いポジションと言われていますね。
「はい。でも果たしてそれが本当に正解なのか。たとえば自分があえて左側に寄って、右側を空けてそこに誘う、というポジショニングを選択すること自体は問題ではない。でも、そのポジショニングを選択するうえでの“明確な理由”は必要です。根拠の有無によって、失点の確率が変わりますから。状況に応じて的確なポジショニングをとることで、失点する確率はかなり下がるということを、データを出しながら話してくれるんですよ」
――必ずしもセオリーに縛られるのではなく、状況を見て、考え、自分自身が判断するほうが良い結果が出ると。
「実際、練習ではニアを空けて誘っておいて、結果的に失点することもあります。でも、それも自分の経験になるので。本当に面白いですね。ほかのクラブのGKと、今の浦和がやっているGKのポジショニングはたぶんちょっと違うと思います。僕らは常に解決方法があるかないかを考えるし、無駄な動きをしていないかも意識しているから」
――無駄な動きとは?
「ジョアンからは『細かいステップを踏むことで、対応が遅れてしまう』と指摘されました。そのとき、『ペナルティエリアの大きさを覚えて、体に叩き込むのもGKの仕事だ』とも言われましたね。結局、一歩、二歩、三歩ぐらいで行けちゃうところを細かく動くことによるデメリットがあるわけです」