甲子園の風BACK NUMBER
「僕が関わる高校生は“振れ幅”が大きい子たちだけど…」仙台育英・須江航監督が語る“対話の重要性”「大事なのは怒りに依存しないこと」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/09/17 11:06
須江航監督の指導は何より「対話」を重要視するのだという。それに気づくきっかけとなった就任1年目の出来事とは…?
試合のベンチでは穏やかな表情を見せる須江は、一見「怒らない監督なのかな」と思わせることもある。だが、それを須江は完全否定する。
「試合の中のプレーでミスが起こっても、厳しい叱責はほとんどしません。公式戦など、発表の場で怒ってもしょうがないですから。ミスの原因ってほとんどが思考の問題なんです。だいたいのミスは頭が追いついていない。自分が何をすればいいのか分からないうちに何かをしなくちゃいけなくなって、結局できなくてそれがミスになる。でも、その場で『お前、何をやっているんだ』って言っても手遅れなんです」
仙台育英では普段は選手に考えさせ、自主的な練習を促している。ミスを起こした場合も指導者がいきなり頭ごなしに怒るのではなく、なぜそのミスが起きたのかを考えさせ、起きないようにするにはどうするべきか、自らの思考を張り巡らせながら原因をしっかりと突き止めるようにしている。
「でも、自主的な練習ってある程度、思考力がないとできないじゃないですか。だからそれを授けられるまでは厳しいことはよく言います。あとは規律や生活態度に関してもキツイことは言いますね。僕のことを優しいって思っている選手は1人もいないんじゃないですか(笑)。
気をつけるのは「怒るのに依存しないこと」
ただ、気をつけるのは怒ることに依存しないことです。怒られたことで選手に気合が入って、根性を出して頑張ったみたいな言われ方をされることもありますけれど、『あの時、僕が県大会で喝を入れたことでチームが引き締まった』とか『そこを突破して甲子園に行けた』とか『優勝した』とかってなると、それは麻薬みたいになってしまうんですよね。もっと叱れば、怒れば成果がついてくるのではという悪循環になるんです。
選手からしたら怒られないようにしようという思考が働くだけで、何かを成功させようとか、もっといい組織にしようとか思わなくなります。怒ることで破滅に向かっていく部分もありますが、それでも怒るという手段を使わないといけない時は怒る、くらいの感じですかね。怒ることは最終手段というか、実際は効果がないということを自分に言い聞かせておかないといけないです」
怒鳴り散らす、声を荒げるのではなく、諭す、説く、というスタイルを敷く指導者が最近は増えてきた。ミスを勢いで否定するのではなく、事柄を頭に浸透させて理由を導き出せるのが最も理想的かもしれない。