プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「情けないのう…呆れるよなあ」ヤクルトの死球問題に阪神・岡田彰布監督が激怒するワケ “内角攻め”の伝統は野村克也監督の教えにあり?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2023/09/08 17:00
9月3日のヤクルト対阪神戦の9回、ヤクルト・山本大貴の投じた一球が阪神・近本光司の右脇腹を直撃。近本はうずくまり、交代を余儀なくされた
「もちろんぶつけようと思って、ぶつけているわけではないんですけど、持ち球がシュートなので、そこに行ってしまった」
実はこの試合で近本にぶつけた山本も、8月に梅野にぶつけた今野も、そして石川の頭部死球を投じた木澤尚文投手もシュートを武器にしている投手なのである。
シュートピッチャーを多く輩出するというのはヤクルトの1つの“伝統”のようなもので、その流れを作ったのは野村克也元監督の教えなのである。
「シュートを投げられるようになりなさい」
「野村再生工場」と言われた野村監督は、なかなか芽の出ない投手には、こう助言することが多かった。
野村監督の野球論をまとめた最新刊『野村克也 野球論集成 実技講座』(徳間書店)で野村監督は「内角球を使えない、内角球を生かせない投手はプロでは生き残れない」と論じている。その上で基本的に内角球はボール球で使うもので、捕手がその内角への配球を選択する条件として投手に「球威がある」「制球力がある」「鋭く変化させる」のうち1つがあることが最低条件としている。
プロの世界でなかなか力を出しきれない投手たちに、どう活路をひらかせるか。そのための方法として内角を使う、生かすことを教え、その手段として「鋭く変化させる」シュートの習得を求める。
それがヤクルトに残した“野村の教え”だったのである。
実際にノムさんはその手法で南海時代には巨人で前年0勝に終わった山内新一投手を20勝投手に再生した。そうしてヤクルト監督としても数々の投手にプロとしての息を吹き込んできた。ダイエー(現ソフトバンク)の3年間でわずか2勝しかあげていなかった田畑一也投手を移籍1年目で12勝(12敗)させたのも、シュートを覚えさせてだったのである。
田畑だけではない。先発としてはなかなか一本立ちできなかった金澤次男投手や山田勉投手、宮本賢治投手らの中継ぎ投手たちはいずれもシュートを持ち球として野村ヤクルトの優勝に貢献した投手たちだった。
もう1つの“野村の教え”とは?
そしてこの“野村の教え”が脈々と息づいているからこそ、ヤクルトにはシュートピッチャーが多く輩出されている。
典型的な選手が木澤である。