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「パリ五輪出場決定」でも河村勇輝が感情を爆発させないワケは?…バスケW杯で世界が注目“身長172cmの司令塔”の見据える先
posted2023/09/03 18:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
FIBA
「落ち着いていましたよね。彼らは負けを経験していないんですもん。勝った経験しかないんですもん。フィンランド戦は、本当に若手の力があってこそ勝てたと思いますし。やはり、違うんですよ、今の若い子たちは(笑)。風の時代の子たちです。本当にどんな相手も恐れていないですし。僕たちも学ぶことが多くて――」
2016年以降、世界の主要国際大会で10連敗中だった日本が初めて、勝利をつかんだときのこと。チームの大黒柱の渡邊雄太も、コートの中でも外でもムードメーカーである馬場雄大も、涙を浮かべていた。
一方で、それとは対照的にチームの若手が「普通に」喜んでいたことについて問われたときの27歳の馬場の答えが冒頭のものである。
今大会、初出場の選手は12人中9人もいた。チーム最年少で22歳の河村勇輝はそんな若手の筆頭格である。
五輪決定のウイニングボールを渡邊雄太に…?
9月2日のカーボベルデ戦。パリ五輪の切符が現実のものとなりつつあった残り10秒を切った場面。ボールを受けた河村は相手ゴールではなく、自分たちのコートの方に視線を向けていた。このチームの大黒柱である渡邊の様子を確認するためだ。だが、大黒柱は10連敗を喫した7年間をかみしめる“モード”に入っていた。
「雄太さんはトムさんの体制の前から、ずっと日本代表を引っ張ってきた先輩なので。やはり、最後のウイニングボールは雄太さんに渡したかったんですけど、僕は相手コートに入ってしまっていて(ルールがあるため)そこからは後ろには戻れないという(笑)。あのとき雄太さんは(感極まって)下を向いてしまっていたので。ブザーが鳴ってから渡しに行こうと考えていました」
だから試合終了のブザーが鳴ると、河村は一目散に渡邊の元へ向かった。日本が48年ぶりに自力で五輪の切符をつかんだ試合の記念ボールを渡すためだった。
フィンランドやベネズエラに勝ったあとも、そして最終戦の最後の瞬間でも、傍から見れば河村は落ち着いていた。その理由を聞かれても河村は答えに困ってしまう。もちろん、嬉しくないわけではないからだ。