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「バスケ後進国」日本はなぜ最終クオーターで何度も大逆転できた? トム・ホーバスHCがかけた“自分たちを信じる”のための「3つの魔法」
posted2023/09/03 11:06
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
FIBA
勝つためには、勝った経験が必要である。
とんち話のようだが、スポーツの世界では本当の話である。勝った経験が自信を生み、それが苦しい状況で力になる。
日本は、2016年のリオ五輪の世界最終予選から、2019年中国W杯、2021年東京五輪まで主要国際大会で10連敗中。世界の舞台で勝った経験のある選手は12人のメンバーに1人もいなかった。
しかも、今回のW杯で戦った5チームのうち4チームは世界ランキングでも格上となる相手だった。それでも格上相手との試合をしながら自信をつけ、最後のカーボベルデ戦も80-71で逃げ切りに成功。3勝2敗という成績を勝ち取り、このW杯のアジア最上位のチームに与えられるパリ五輪出場の切符を手にした。
今大会で象徴的だったのが、どんなに劣勢に追い込まれても、選手たちが勝利を信じていたことだ。
勝った経験がないにもかかわらず、彼らは自分たちの可能性を信じていたのだ。
2戦目のフィランド戦では第3クオーター(Q)の残り2分46秒で最大18点差、4戦目のベネズエラ戦では最終4Qの残り8分11秒の時点で最大15点差のビハインドから、強烈な逆転劇を演じた。ベネズエラ戦の15点差はさすがに苦しかったことをキャプテンの富樫勇樹も認めている。
「残り8分で15点差と、本当にかなり危機的な状況だったと思うんです。でもやはり、このバスケットを“信じて”打ち続けて……全員であきらめずに戦った結果だと思うので」
なぜ日本は終盤で異常な粘り強さを見せられたのか?
驚異的な粘り強さを手にしたのは、トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)が口にし始め、選手たちみんなに伝播していったキーワードがあるからだろう。
「BELIEVE」
このチームは自分たちの力と可能性を「信じられる」集団だった。
ムードメーカーである馬場雄大はこう語る。
「トムさんは合宿1日目から、しつこく、しつこく、『自分たちを信じることが必要だ。それが君たちにはまだ、できていないことだ』と言っていたんです。だから、僕らも(必要だと)常に自分たちに言い聞かせて戦えたのだと思います」
しかし、「信じろ」と言って、相手を信じさせられるのなら苦労はいらない。日本代表の12人の選手が、本気でチームを信じられたのにはおそらく3つの要素がある。
1つ目が「自分のことを信じるよう」に口に出して、発言させたことだ。
言葉には魂が宿るといわれている。今大会に向けた合宿の初日のミーティングでのこと。ホーバスHCはすべての選手に、このような言葉を口に出せるかを問いかけた。