EJ　きっとハードなトレーニングをする上で、トムが示した指針が正解だったのでしょう。ラグビー日本代表についていえば、W杯での歴史は「ノンパフォーマンス」の歴史です。過去にも練習の強度を上げたコーチはいました。しかし、指針が間違っていた。トムが話したように、しっかりとした分析と準備を行い、選手たちに武器を供給すれば自信が芽生え、目標達成は現実のものとなるのです。

TH　最初、私が「オリンピックで金メダルを目指す」と言った時、みんな、私のことをクレージーだと思っていたはずです。

EJ　2015年W杯で南アフリカに勝てると思っていたのは、世界中で日本代表の選手とスタッフだけだったでしょうね。でも、それでいいんですよ。

TH　オリンピックでうれしかったのは、何人かの選手が「私が自分自身を信じるよりも、トムがより私を信じてくれた」と言ってくれた時でした。

EJ　選手たちが信念を持つ以前に、コーチが選手たちを信じていたということですね。素晴らしいストーリーです。

選手たちと言葉をかわし、勝利を噛み締めるホーバスHC（2021年東京五輪）©︎Asami Enomoto/JMPA

「スタンダード」を日本が世界に示せる

――私が思うにおふたりはチームの「指針」を作るにあたって、データや分析をかなり重視していますよね？

EJ　すべてに裏付けが必要です。世界で戦うために、選手たちにはフィットネスとストレングスの数値を示し、チーム全体においては試合を重ねていくことでアタックの方向性を最適化する。たとえば、キックとパスの比率を意識することでゲームをデザインしていくのです。

――エディーさんは2015年W杯の前、パス9に対してキック1が日本代表のベストパフォーマンスにつながると話していましたが、南アフリカ戦ではキックの割合が増えた。

EJ　それはあくまで、ゲームで勝つための駆け引きの一部ですよ。

――トムさん、アメリカのESPNのコメンテーターであるザック・ロウは、東京五輪の日本女子代表を「NBAのウォリアーズとロケッツから生まれた子どものようだ」と表現していました。いずれもデータを重視しているチームです。

EJ　それは面白い表現だ。

TH　それこそ、私が渇望していた言葉です（笑）。なぜなら、両チームはスタイルこそ違うけれど、私はそのエッセンスを女子代表に導入しようと努めてきたからです。

女子代表でも武器となった3Pシュート。今回の男子W杯でも勝負のカギを握っている　©︎Getty Images

EJ　私もバスケのコーチングを研究しましたが、ウォリアーズのヘッドコーチ、スティーブ・カーは3ポイントシュートを多用し、成功させることで、NBAに革命を起こしましたよね。

TH　私が女子代表のヘッドコーチになったころ、ウォリアーズがNBAを制し、王者にふさわしいスタイルを披露していました。当時、世界の女子バスケは3ポイントシュートとスペーシングについて、男子と比べるとずいぶん後れを取っていました。

EJ　男子よりもどれくらい遅れていたんですか？

TH　女子は、80年代や90年代に流行したパワーバスケがまだ幅を利かせていたんです。分析を進めていくと、日本の女子はウォリアーズが展開したようなスタイルが合っているし、実際に転換可能でした。彼女たちのシュート成功率はもともと高かったので。つまり、日本はいち早くパワーバスケから脱却し、女子のスタンダードを世界に示せると信じたし、だからこそ金メダルを獲れると思ったのです。

――その結果、オリンピックで3ポイントシュートを最も多く放ち、成功数、成功率でトップになったというわけですね。

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