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野球善哉BACK NUMBER
高校野球「丸刈りは悪、勝つ野球は悪なのか?」“甲子園取材歴20年超”記者の視点…慶応高・森林監督は「指示通りに動く選手では足りない」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/25 17:02
連覇を逃し、肩を落とす仙台育英
広陵は3回戦の慶応との試合で9回裏、無死一塁の場面で大会屈指のスラッガー真鍋慧が送りバントを試みた。個人の判断だったが、「勝つためには走者を進めなければいけない」というマインドだった。投げても、エースの高尾響はこの試合10回を1人で投げ抜き152球の完投。勝つことを前提とする野球で、いいゲームを展開した。
その頂上にいたのが仙台育英である。
仙台育英の洗練された野球は見事だった。甲子園でホームランを打てる選手でもスクイズし、1勝にこだわる。必死にチームの勝利を目指し、連覇まであと一歩に迫った。
慶応が素晴らしくて、仙台育英の野球が悪という訳ではない。
ある意味で対極にある野球が決勝に進んだのだから、どちらも世間から認められるべきだ。丸刈りが悪くて、髪形自由が良いという訳でもない。ちなみに、おかやま山陽は先述したように、個を尊重した投手マネジメントを実践していたが、丸刈り校である。
だだ、かつては勝つための野球だけが正しいとされてきた。甲子園は丸刈り校だけという時代もあった。しかし、これからは野球の選択肢が生まれてきているということも事実なのだ。その変わり目として、慶応の優勝があったのではないか。
思い出した東北高校のペッパーミル騒動
思えば、今年の高校野球のスタートを告げたセンバツ大会の開幕戦で話題になったのは東北高校のペッパーミルパフォーマンスだった。
髪形を自由にし、「楽しさ」を体現する東北は、1回表の先頭打者が出塁すると、ペッパーミルパフォーマンスを演じたが、この行為を日本高野連が問題視。世間を巻き込む騒動となった。
その背景にはスポーツは楽しむものだろうというものと、「丸刈り」を含めた高校野球があるべき姿の品格との鍔迫り合いがあったと思う。
しかし、この夏、慶応などさまざまなチームがベース上でパフォーマンスをしても、咎められることはなかった。
実はペッパーミルパフォーマンスで話題となった東北ナインは、センバツ開幕戦で敗れた日の翌日、甲子園を訪れると、対戦相手の山梨学院のナインたちと遭遇。記念撮影をしたそうだが、その際、両チームが取ったのは選手全員での「ペッパーミルパフォーマンス」のポーズだった。
両者の方向性は違えど、それぞれに高校野球を表現する理想系がある。
「監督の指示通りに動く選手では足りない」
慶応の森林貴彦監督はこう話す。