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野球善哉BACK NUMBER
「なぜ慶応高はチャンスでフライアウトしても怒られない?」甲子園“勝つ野球”ではタブーだが…現場記者は見た「高校野球の常識が変わる夏」
posted2023/08/25 17:01

107年ぶりの優勝を果たした慶応高。主将の大村昊澄と1番打者の丸田湊斗
text by

氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Hideki Sugiyama
◆◆◆
現場記者の驚き「この選手がスクイズをしたのか」
この選手がスクイズをしたのか――。準々決勝の花巻東戦でプロ顔負けの芸当で右翼オーバーの適時打を放った仙台育英の5番打者・尾形樹人のスイングを見て「甲子園で勝つこと」の意義を改めて考えた。
その尾形は履正社との3回戦の8回表、1死三塁の場面でスクイズを決めているのだ。ヒーローインタビューのお立ち台に上がった尾形はこんな話をした。
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「先頭の湯浅(桜翼)が二塁打で出塁した時点で閃きました。自分のところでスクイズがくるって。どうやってスクイズのカウントを作ろうか考えて打席に入りました。7、8、9回でゲームを支配するということを夏前から練習してきて『終盤の鬼』になるゲームをやってきた。スタンドのみんなも最後はスクイズだと思っていたと思う。みんなで勝ち取った1点です」
部員全員の意思が一つだったということに「甲子園で勝つチーム」とはそれほど思考が洗練されているのかと驚いた。
同時にそのスクイズの場面で、もし彼が強攻していたら……それはそれで個人の成長につながったのではないかとも思った。もちろん、勝利を代償にしてしまう可能性はある。甲子園の勝利と選手の育成にはそうしたジレンマがあり、その日の勝敗だけでは語れないものがある。
【1】「じつは“丸刈り校”はどんどん減っている」
慶応の優勝で幕を閉じた夏の甲子園は、勝つための野球、主体性を持ち楽しむ野球といった各校の方針が色濃く出た大会だった。
今大会中、何度もメディアを賑わした「丸刈りvs髪形自由」論争はそのひとつだろう。
じつは全国的には“丸刈り校”の比率は5年前から逆転現象が起きている。