マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「あっ、丸田君」「あれは延末君だね」…なぜ慶応高の選手は覚えやすい? 慶応野球が示した“エンジョイ”でも“髪型”でもない学生野球に「なかったもの」
posted2023/08/24 17:03
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Naoya Sanuki
慶応高は、最後までいかにも慶応高らしく、そして強かった。
決勝の大舞台で先頭打者ホームランを放って、仙台育英の出鼻をくじいたリードオフマン・丸田湊斗中堅手は、数年後には丸田の「田」がとれて、「丸(佳浩・巨人)」になれる逸材だ。左打席から、反対方向に痛烈なファールが打てるのがその何よりの兆しだ。
同じく決勝で4番を打った延末藍太一塁手のバットコントロールなど、花巻東・佐々木麟太郎、智弁学園・松本大輝、九州国際大付・佐倉侠史朗にも全くヒケをとらない高等技術だ。この大会では、研究され、自身も珍しくちょっと気負って苦労したが、ゆくゆくは球界有数のバットマンになれるヤツだ。
小宅雅己、鈴木佳門……投手陣の2本柱がそのままそっくり新チームに残り、クリーンアップの一角を担った加藤右悟外野手もまだ2年生。秋からの慶応高も、きっと攻略困難な、なかなか負けないチームになっていくのだろう。
「記憶に残りやすい」慶応高の選手たち
慶応高が神奈川の強豪として台頭したのは、前任の上田誠監督の頃だから、もう10年以上も前になる。
それにしても今年ほど慶応高の試合を見た年も、今までになかったと思う。
春の神奈川県大会に始まって、そのあとの関東大会、夏の神奈川県予選――それに、この甲子園大会。別に追いかけていたわけではない。単なる巡り合わせにすぎないのだが、球場の現場で、テレビ中継の画面で、繰り返し選手たちを見ていたおかげで、選手たちの顔もすっかり覚えてしまった。
おそらく日吉(横浜市)の駅あたりですれ違ってもレギュラークラスなら「あっ、延末君だ」とすぐにわかるはずだ。
その一方で、現場やテレビの画面で何度も見ているのに、いっこうにその顔立ちが記憶のヒダの中に刻み込まれない高校球児たちがたくさんいる。
「何が違うのか」とちょっと頭をひねってみて、わりとすぐに「推論」が浮かんだ。
覚えることができるのは、いろんな顔を見ているからだ。
喜んでいる顔、悔しがっている顔、悲しんでいる顔、真剣な顔……彼らの「喜怒哀楽」に接してきたからではないか。だから、彼らの印象が立体的なのだ。それが確かな記憶になっているのだろう。