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“脱スポ根の少年野球”へ「感情で指導しないでください」監督が保護者と交わした3つの約束「私も長年、怒鳴っていたがそれでは子供が…」
text by
辻正人Masato Tsuji
photograph byKANZEN
posted2023/07/17 17:01
「多賀少年野球クラブ」の監督が考える少年野球の問題点とは?
例えば飲食店に入ったら、スタッフが気分良く接客できように、こちらから声をかけます。少年野球の監督をしている時だけ、違う人格になろうとしても上手くいきません。普段の生活から変えていくことで、グラウンドでも選手にストレスを与えない指導ができるようになります。
子どもたちを楽しませて盛り上げるスタイルは、決して無理をして演じているわけではありません。昔から人を笑わせたり、楽しませたりするのが大好きだった本当の姿です。私の反省点は、他の指導者や保護者に「舐められたくない」という気持ちが強過ぎたところです。
“脱スポ根”を打ち出してすぐ変わったわけではなかった
20歳で少年野球チームの監督となり、年配の指導者や年上の保護者に下に見られたくない思いから、「監督はチームで絶対の存在」と見せつけようと子どもたちに厳しく接していました。そんな態度で指導していたら、チームが強くても部員が増えないのは当たり前ですよね。
実は、怒声罵声をやめる“脱スポ根”を打ち出してから、すぐにチームの雰囲気が変わったわけではありませんでした。
きっかけは、夢でした。ある土曜日の朝、現実のようにはっきりとした映像が頭の中に残ったまま目覚めました。その夢は、私が試合中に選手を盛り上げている内容でした。いいプレーが出た時だけではなく、フルスイングした選手や一塁まで全力疾走した選手、前向きなプレーをした選手を褒めてベンチが沸いている夢です。
目が覚めた私は「今、夢で見たことを早くチームで試したい」と、はやる気持ちを抑えながらグラウンドに行きました。その日は、4年生のチームも、5、6年生のチームも公式戦でした。5、6年生のチームは午前と午後のダブルヘッダーで、午前の相手は危なげなく勝てると踏んでいたのでコーチに任せ、私は4年生のチームでベンチに入りました。
「やっぱり、このやり方だ。夢の通りだ」
4年生のチームが参加していたのは、5年生の選手も出場できる大会でした。この日は決勝戦で、相手チームは5年生の選手ばかりでした。私は夢で見た盛り上げ方を試すため、選手たちに「いいか、きょうは空振りでもフルスイングした選手には拍手、一塁まで全力疾走した選手にも拍手しよう。ヒットを打った選手には、それ以上に拍手して盛り上がろう」と声をかけました。
ベンチは、これまでにないくらい沸きました。