甲子園の風BACK NUMBER
「不足だらけのチーム」でも“大阪桐蔭キラー”金光大阪に躍進の予感 光ったエース左腕・キャリー・パトリック波也斗の成長
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/07/20 06:00
“大阪桐蔭キラー”金光大阪の横井一裕監督。今月の大阪府大会で「台風の目」になれるか
春季大会の功労者を監督に尋ねると……?
この春のチームの功労者について尋ねると、指揮官は迷いなくエースの名を挙げる。
「春はキャリーの成長に本当に心を打たれました。昨秋の段階では気持ち的に不安定なところがあって、とてもじゃないけれど1試合を任せられるようなピッチャーではなかった」
春季大会準々決勝の東大阪大柏原戦では1安打完封勝利(3-0)。近畿大会でも初戦で近江(滋賀)を相手に7安打2失点の完投勝利を挙げ(3-2)、次戦の京都国際戦でも6安打5失点ながら完投勝ち(6-5)。
ストレートは130km台中盤だが、緩急をうまく使いながら粘り強いピッチングでチームの躍進を支えた。アメリカ人の父を持ち、普段の会話はほとんどが英語だという。独特のテークバックは球の出所が見づらく、タイミングを取りづらい。
だが、横井監督が最も評価するのはキャリーの“普段の姿”だ。
これまでは仲間の後ろをついて行くことがほとんどで、言葉も多くを発しない性格だった。物静かで感情を表に出すことはあまりなかった左腕が、今春は練習でも自分から進んで行動するようになった。試合では周りを見て、下級生にも積極的に声を掛けた。試合後「周囲の人に感謝しながら投げたい」と本人が話していたように、野手に声を掛け、自身がベンチスタートだった試合でも仲間に献身的に振る舞う姿が印象的だった。
甲子園に「つながらない」春季大会の捉え方
一方で、甲子園には直結しない春の大会でもある。
結果的に府大会では優勝しながら、近畿大会の決勝では奈良の智辯学園に敗れた。そのことについては、横井監督はどう捉えているのだろうか?
「春とはいえ、(府大会の)決勝で勝てたことには価値があります。大阪にとって大阪桐蔭、履正社以外の学校が優勝したことは意味があるのではとも思うんですよ。それによく世間では“春の大会だから”みたいな言い方をすることもありますけれど、大阪桐蔭は春もきっちり勝って府内で56連勝していた訳でしょう。
ウチは昨秋の大会は府で負けてしまって(※準々決勝で関西創価に0-1で敗退)、冬の練習の成果をこの春どれだけ出せるかを見たかった。そういう意味では、春の大会を軽視されるのは悲しいですよね。近畿大会も最後まで勝ち進めたのは良かったですけれど……夢から現実に戻された感じですけれどね(※決勝は智辯学園に0-10)」
そう指揮官は苦笑いする。また、こんな葛藤もあった。