甲子園の風BACK NUMBER
「不足だらけのチーム」でも“大阪桐蔭キラー”金光大阪に躍進の予感 光ったエース左腕・キャリー・パトリック波也斗の成長
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/07/20 06:00
“大阪桐蔭キラー”金光大阪の横井一裕監督。今月の大阪府大会で「台風の目」になれるか
昨年のチームと比べて感じる“差”
「府大会で優勝できたことをちゃんと評価してあげないといけないよな……と思いながら練習に来ても、選手らの態度を見ていたらやっぱり何かを言いたくなってしまうんです」
現チームについて、横井監督は「不足だらけのチーム」と半ば嘆き口調で言う。
昨春のセンバツ大会では8強まで進んだが、当時は捕手で4番の岸本紘一(現近大)のような精神的支柱になる主将がおり、まとまりも良かった。だが、現チームはおとなしい選手が多く、柱になる選手が不在なのだ。
「『さあ、次は夏の甲子園だ』と言われても、こしょばい(くすぐったい)んです。近畿大会も試合前からミーティングをしていても、自然と怒り口調になってしまっていて……。春の大会が終わった後も怒ってばかりでした。チームのスタート時から、それは変わらないんです。このチームには力はありません。ただ、選手たちはそれを理解した上で行動しているので、何とかしようとする姿は見て取れました」
春の大阪府大会は雨で日程が順延し続け、決勝戦は滅多にない平日開催だった。
そのため、決勝戦後の閉会式等はすべて割愛されたが、マスコミの要望で試合後に集合写真を撮影することになった。球場外で選手らは、控えめな笑顔で集合写真撮影に応じていた。
「この子らはそういう経験がなかったので、優勝旗をもらって、写真撮影をして……それはひとつの成果として残ったので良かったです。その後は普通にバスに乗って、普通に帰って次の日に練習して、何事もなかったかのように日は流れていました。『やったぁ! 優勝や』って喜んで終わるのが一番怖い。でも、優勝という現実を前にしても、選手らは『いや待てよ』みたいな雰囲気にはなっていましたね」
大人しい、意思表示をあまりしない選手たちでも“自分たちは強くない”という自覚があった。近畿大会に舞台が移っても、いつも通りの心構えで戦えたからこそ、決勝までの道が開けたのだろう。
「大阪桐蔭と対戦するのは毎試合、楽しみ」と横井監督は言う。
「その年、その年で力の差が違いますが、最終的にはちゃんとやることをやれれば試合にはなります。野球って難しいもので、力があるがゆえにコテンパンにやられることもあるんです。それでも、あまり終わりを考えないようにしています。『何点勝負に持ち込みたい』とか、『こういう展開にしたい』とかは選手らには言わないようにしています」