濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
王座戦直後、総武線に乗って…大日本プロレス“東京→名古屋ダブルヘッダー”をやり遂げた選手たちの思い「自慢にならないことで燃えるのがインディーです」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/07/04 17:00
ブッキングの手違いから始まった遠距離ダブルヘッダー。野村&阿部のアストロノーツは王座を防衛
「自慢にならないことで燃えるのがインディー」
昼の35分50秒に続いて、岡林vs.阿部のシングルマッチは19分41秒。合わせて1時間近くも闘った。とてつもなくハードな2試合を終えて阿部が思ったのは「五体満足だな」ということだった。
「どうやら五体満足で、バスに乗って帰れそうです。撤収もできますね。“プロレス”に勝った気分です。自慢する気もないんですけどね」
なぜ自慢する気がないのかといえば、好きなことをやっているだけだからだ。
「好きなことをとことん突き詰めて、自慢にならないことで燃えるのがインディーでしょうね。やってることは意味分かんないんですよ。1日1大会でいいんだし、移動で余計な交通費もかかるわけじゃないですか、団体としては。理屈に合ってないですよね。でも理屈以上のものが得られた気がします。意味分かんなくても、終わってみたら“やってよかった”と思っちゃいましたね」
実は試合後の売店には立てなかった。それくらいダメージがあったのだ。それでも撤収には加わって、リングの鉄骨を運んだ。野村も関本も岡林も。そして選手バスに乗り込む。無事に家に帰るまでが遠征だ。後楽園で使ったリングを道場に戻した登坂も名古屋に到着していた。インディーだからこそのダブルヘッダーを終えて、何を思うのか。
「“どうだ!”という感覚は正直ありますね」
「選手、スタッフの地力のようなものを感じましたね。1日2大会、綿密な打ち合わせをしたというわけでもないんです。でもみんなが自然に動いて、無事に終えることができた。試合も熱戦でしたし、全部含めて胸を張れるクオリティ。“どうだ!”という感覚は正直ありますね」
理屈で考えればやらなくてもいい、というよりやらないほうがいい東名ダブルヘッダー。取材していてもとにかく疲れた。疲れたけれど、何か痛快だった。
それは、どれだけ稼いだかを臆面もなく誇る者たちが注目され、“コスパ”、あげくは“タイパ”などという言葉が当たり前に使われる世の中に逆行する気持ちよさだ。この日、大日本プロレスの面々は体を張って無駄と無茶をしまくり、ほかがやらないことをやってインディペンデントの反骨心を示した。ちなみに関本は翌朝(月曜日)に帰宅し、その日のうちにジムでトレーニングに励むと、火曜日には他団体に参戦した。彼にはそれが当たり前のことなのだった。
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