濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
王座戦直後、総武線に乗って…大日本プロレス“東京→名古屋ダブルヘッダー”をやり遂げた選手たちの思い「自慢にならないことで燃えるのがインディーです」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/07/04 17:00
ブッキングの手違いから始まった遠距離ダブルヘッダー。野村&阿部のアストロノーツは王座を防衛
ダブルヘッダー観戦のファンも
ダイアモンドホールに着いたのは、17時30分の開場とほぼ同時。後楽園を撤収前に出た選手たちが、元気に売店に立っていた。みんなとにかくタフだ。いや選手だけではなかった。346kmを移動しての昼夜ダブルヘッダー観戦というファンが何人もいるのだから驚く。何か今日は特別なものを見ている。そういう雰囲気が醸成されていく。
セミファイナル。昼の続きのように野村と関本がガツガツとぶつかり合う。フルネルソン・スープレックス・ホールドで勝った野村だが顔を見ると放心状態のようだった。
「思ったように体が動かなかったですね。その中でベストを尽くすことはできたと思います」
たとえばこの日の2カードが別の日に組まれていたら、試合内容も違っただろうと野村は言う。ただどちらがいいかは分からない。
「今日は火事場の馬鹿力みたいなものが出たので。“もう立てないかもしれない”という感じだったけど、見に来てくれたお客さんに失礼のないようにと。関本さんも同じだったと思います」
試合中の涙「負けたくねえんだよ!」
阿部は後楽園のシャワー室で思わず叫んだそうだ。興奮、疲労、体の痛み、夜のシングルマッチに向けた気合いとプレッシャー。感情が昂って、渦巻いて、阿部は岡林とのシングルマッチの途中で涙を流しはじめた。
「負けたくねえんだよ!」と泣きながら叫んで岡林に向かっていき、立てなくなると足にすがりつく。岡林はそれを振りほどいてゴーレムスプラッシュ(ボディプレス)で3カウント。
「お互い万全じゃない。疲労しきった状態。でもこのシチュエーションで阿部とやれてよかった」
そう岡林は言った。岡林は公称120kg。阿部は80kgだ。真っ向勝負は阿部にとって明らかに不利。けれども、リングに上がるとそうしたくなってしまう。試合前、阿部は言っていた。
「関本さん、岡林さんとの試合は、長くできるスタイルではないのかなと思いますね。あの2人と真っ向からやり合うのって、理にかなってないというか効率が悪いというか。でも自分で始めちゃったものだから仕方ない(笑)」
涙の理由について「負けたくなかったんです。シングルマッチはたぶん最後。ちゃんと勝ちたかった」と阿部。岡林は6月いっぱいで試合から離れ「引退も視野に入れた無期限休業」に入った。もともと、現在の年齢である40歳を節目として考えていたそうだ。発表になる前から、阿部はそのことを知っていた。だからこそ、タッグ王座戦は“完全決着”でなければいけなかったのだ。