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井岡一翔が“覚悟”を示した一方で…フランコの「2.9kgオーバー問題」をどう考えればいいのか?「公平性の担保はスポーツの絶対条件」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/06/26 17:03
ジョシュア・フランコに判定3-0で勝利して世界王者に返り咲いた井岡一翔。一方で、フランコの「大幅な体重超過」が試合に大きな影を落とした
関係者によると、井岡陣営はもっと厳しい当日計量を要求したが、そもそもフランコ陣営はさらに重いウエートを要求し、130ポンドで落ち着かせるのが精一杯だったという。どうしても試合がしたい井岡陣営と、場合によっては試合をしなくてもいいと考えたフランコ陣営の立場の違いがこのような結果を生んだと言えるだろう。
契約体重を守るのは階級制スポーツの最低条件
それにしても真面目と評判で、日本のメディアの受けも良かったフランコはなぜこのような失態を犯したのだろうか。試合翌日、フランコは自身のSNSで引退を表明。キャリアを通じてメンタルヘルスの問題を抱え、それを隠してリングに上がっていたと明かした。このような状態でも「試合を中止にするわけにはいかない」と試合出場を決意し、精神的にタフな井岡とフルラウンド戦い抜いた。これを知ってフランコに同情と敬意を抱くと同時に、それでもなおモヤモヤとした気持ちを消すことはできない。
契約体重を守るというのは階級制スポーツであるボクシングの最低条件であり、公平性の担保はスポーツがスポーツであるための絶対条件である。チケットを売り、放映権料が入り、スポンサーもいて、多額のお金が動く中で、興行を中止することは確かに難しい。そのような国際的なルールも存在しない。ただし、計量で2.9kgも超過した選手と、しっかり減量して合格した選手が試合をしたのでは、熱心なファンほど「ボクシングって何でもありだったのか」と肩を落とすのは必至だ。問題はそこにある。
計量失格が世界で相次ぐ中、個々のボクサー、トレーナー、マネジャーだけに頼るのには限界がありそうだ。再計量の方法を含めてこうした緊急事態に対応したルール、システムの整備はやはり必要なのではないだろうか。深く考えさせられる世界タイトルマッチだった。
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