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井岡一翔が“覚悟”を示した一方で…フランコの「2.9kgオーバー問題」をどう考えればいいのか?「公平性の担保はスポーツの絶対条件」
posted2023/06/26 17:03
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチが6月24日、東京・大田区総合体育館で行われ、同級6位の井岡一翔(志成)が計量失格で王座をはく奪された前王者のジョシュア・フランコ(米)に3-0判定勝ち。WBO王座を返上してから4カ月で世界王者に返り咲いた。フランコが不可解な大幅体重オーバーをする中で挙行された世界タイトルマッチを振り返る――。
井岡一翔の緻密な戦略「1で止めたんですよ」
昨年大みそか、WBO王者だった井岡とWBA王者のフランコは2団体統一戦で拳を交え、互いに譲らずドロー決着。井岡は「挑戦者としてフランコと再戦するのが一番だと思った」と虎の子のWBOベルトを返上し、退路を断ってダイレクトリマッチを選択した。
初回、旺盛な手数とスタミナが武器のフランコが第1戦と同じようにテンポよくジャブを繰り出す。井岡はこのジャブをいくらかもらったが、前回のようにロープを背負ったり、ディフェンスに長く時間を取られたり、という同じ轍は踏まなかった。
「覚悟を持って試合をする。自分が倒されても、自分が倒しても、後悔がないように勝負しないといけない試合だと練習のときからずっと思っていた。その気持ちがあれば下がらないし、相手の得意分野で勝てば負ける要素はない」
駆け引きするつもりはなかった。多少の被弾も恐れなかった。今回ばかりは技術の前に気持ちであり、覚悟なのだ。自らにそう言い聞かせながらも、そこは国内屈指の技巧派であり、緻密なボクシングを身上とする井岡である。フランコの4発、5発と続く厚みのある連打を封じるための策はしっかり用意していた。
「1で止めたんですよ。たとえば相手の1、2のパンチに1でカウンターを合わせると、2、3、4は出なくなる。相手は1を打ったら合わせられることが体に習慣づく。だから僕は当たっても当たらなくても1でカウンターをはめこんでいった。体で押したりしなくても圧力をかけたということです」
フランコの攻撃を「1」で止めた井岡は、序盤から右オーバーハンドを出し惜しみせずに振り下ろし、得意の左ボディを突き刺した。相手の長所を消せば、自ずとこちらの長所が生きる。井岡は間合いを支配し、適切なポジションを取り続けた。絶妙なダブルジャブを上下に打ち分け、右ボディストレートも有効。多彩な攻撃で間合いとタイミングを支配し、フランコを言葉通り“はめこんで”いった。