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井岡一翔が“覚悟”を示した一方で…フランコの「2.9kgオーバー問題」をどう考えればいいのか?「公平性の担保はスポーツの絶対条件」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/06/26 17:03
ジョシュア・フランコに判定3-0で勝利して世界王者に返り咲いた井岡一翔。一方で、フランコの「大幅な体重超過」が試合に大きな影を落とした
フランコも意地を見せて、何度か連打で井岡を守勢に追い込むシーンを作ったものの、形勢を逆転するまでには至らない。もともと一発のパワーはないボクサーだ。井岡は試合終了とともにコーナーポストに駆け上がって勝利をアピール。読み上げられたスコアは115-113に116-112が2人。思った以上にスコアは競っていたが、井岡の文句なしの判定勝ちだった。
フランコの「2.9kg超過」が世界戦に落とした影
井岡のパフォーマンスは素晴らしく、加えて逆風にさらされながらも「自分のやるべきことに集中した」というメンタルの強さには頭が下がる。それでも残念ながら、今回は「良かった、良かった」で済ますことができるだろうか。計量失格が世界タイトルマッチに落とした影はあまりに大きかった。
フランコは前日計量で1回目に3.1kgもリミットをオーバーした。2時間の猶予を与えられたが、1時間50分で200グラムしか落とすことができず、最終的な超過は2.9kgだった。日本ボクシングコミッション(JBC)の定める国内ルールでは、契約体重の3%を超過したら試合そのものが認められない。52.16kgがリミットのスーパーフライ級なら3%は1.56kgになる。この国内ルールは世界タイトルマッチには適用されない。
計量失格で思い起こすのは2018年3月のWBC世界バンタム級タイトルマッチだ。前王者の山中慎介とのリマッチで、王者のルイス・ネリ(メキシコ)が1回目の計量で2.3kgオーバー、最終的に1.3kgオーバーで失格となった。日本のファンから大ブーイングを浴びたあのネリよりも、フランコのほうが数字の上ではひどい。
計量失格の選手と合格の選手がそれでも試合をする場合、体重超過による不平等を少しでも埋めるために、失格選手には試合当日の再計量が設けられる。今回はフランコが当日午前10時に130ポンド(58.97kg)以内という条件で両陣営が合意した。ちなみにネリはリミット53.5kgのバンタム級で「当日昼12時に58kg以内」だった。スーパーフライ級がバンタム級よりも1階級下という事情を加味すると、58.97kgという数字はネリに科せられたペナルティーよりも甘いのだ。