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藤井聡太20歳「はっきり苦しい」王座戦で八冠ロード窮地→「毒まんじゅう」サク裂…《評価値6%》から大逆転の「6四銀」はナゼすごい?
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/06/27 06:00
最年少名人となった藤井聡太七冠は、佐々木大地七段とのダブルタイトル戦と王座戦挑戦権獲得にも挑んでいる
今期の王座戦1回戦で木村一基九段、昨年の銀河戦で谷川浩司十七世名人と、この戦法で上位棋士に勝っている。
村田は藤井との対局で先手番になると、新たな工夫を試みた。5筋の歩を突かず、銀を中段に進めた。速度を重視したもので、「新・村田システム」だという。
実は、村田が用いている戦法はオリジナルではない。中原誠十六世名人は▲4六銀と中段に進めて敵陣に攻め込む、前記の手法を武器にして勝っていた。私こと田丸昇九段も第2図のように、公式戦で同じ手法を何局も用いていた。
1990年の棋王戦で羽生善治竜王と田丸七段が対戦した。私は第2図以降に▲3五銀と進めて敵陣へと攻め込み、寄せ合いを制して勝った。計5局の羽生との対局で唯一の勝利だった。
中原十六世名人と田丸は70代の引退棋士。現役棋士の中で、前記の攻めの手法を用いて工夫を凝らしているのは村田だけだ。「村田システム」と称するにふさわしいと思っている。
《評価値6%》を覆した「藤井の△6四銀」とは
村田六段は藤井竜王・名人との対局で、経験値を生かして自分のペースに持ち込んでいった。藤井が苦し紛れに反発すると、村田は▲8二角と飛車金取りに打って良くなった。AI(人工知能)による形勢評価値は、一時は《94-6》で村田の勝勢を示した。さすがの藤井も「中盤からはっきり苦しくしてしまった」と終局後に語った。
村田が左右挟撃の寄せにいった最終盤の局面で、1分将棋の秒読みに入った藤井が驚異の勝負手を放った。それが第3図の部分局面で、6三からひとつ上げた△6四銀だ。
△6四銀で上部への玉の逃げ道を開けたことで、▲4二銀からの詰みを防いでいる。村田が▲6四同角で銀を取れば、角が動いたことによって先手玉に詰みが生じる。ネット上では「△6四銀は藤井がまいた毒まんじゅう」という声が上がった。
秒読みに追われても詰みをしっかり読み切っていた
村田は、読み筋にない手を指されて動転したようだ。それでも正しく指せば勝ち筋だったが、見落としてしまった。
藤井が一転して寄せにいくと、形勢評価値は《4-96》と急降下し、藤井の勝勢を示した。ネット上では「千賀のおばけフォーク」という声が上がった。藤井は秒読みに追われながら、先手玉の詰みをしっかり読み切っていた。敵陣の竜と自陣の飛車を切り、一気に仕留めた。いつものように鮮やかな寄せだった。