Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER

藤井聡太に3連敗を喫し号泣…出口若武が明かす、叡王挑戦の3局で起きていたこと「盤の前に座ったら頭が真っ白に」「もう少し藤井さんと指せば…」

posted2023/06/29 11:03

 
藤井聡太に3連敗を喫し号泣…出口若武が明かす、叡王挑戦の3局で起きていたこと「盤の前に座ったら頭が真っ白に」「もう少し藤井さんと指せば…」<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

2022年春に藤井聡太叡王に挑戦した出口若武。3連敗で寄り切られた出口が振り返る第3局後に見せた涙の理由とは――

text by

大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

PROFILE

photograph by

Takashi Shimizu

 6月28日、王座戦挑戦者決定トーナメントで羽生善治との対局に勝利し、8冠への挑戦権獲得まであと1勝と“王手”をかけた藤井聡太。これまでタイトルを失うことなく7冠を保持し続けてきた藤井の“防衛力”を昨年挑んだ棋士たちの証言から紐解く。
 2022年10月6日発売Number1060号掲載の[20歳の覇道]藤井聡太「深淵への旅は続く」を特別に無料公開します。全2回の第1回/後編は#2へ ※肩書は当時のまま

 5つ保持するタイトルをどう防衛するか。

 デビュー以来、侵攻を重ねてきた藤井聡太が、初めて経験する守備的な1年。タイトルを次々と増やして棋界の勢力図を自分色に染め上げたのが昨年度とすれば、それを維持するのが今年度の若き天才棋士の最大の使命である。その防衛ロードの4つ目にあたるのが竜王戦だ。

防衛戦は「0.5」ずつ分け合うイメージ

 冠位者は敗れれば傷を負うが、挑戦者に失うものはない。次々に登場する勢いのある敵をどう迎え撃つのか。

 防衛する側は負けると1が0になってしまうのでプレッシャーは避けられない。藤井はその「1」を、挑戦者と「0.5」ずつ分け合うイメージを持っているという。

 自分を挑戦者と対等の立場と見ることで平常心を保とうとしている。人によって接する態度が変わらない、対戦相手によっても作戦を変えることのない藤井らしいフラットな思考法である。

 現状、敵なしの藤井にとって、全冠制覇に向けて大きな壁になる年度前半の防衛戦には、実力と個性と勢いを兼ね備えた3人の挑戦者が立ちはだかった。

 緑が濃くなり始める4月下旬に開幕する叡王戦が藤井の防衛戦のキックオフだった。

連勝街道を歩み挑んだ出口若武

 挑戦権を獲得したのは、デビュー4年目の出口若武(わかむ)六段。連勝連敗タイプで調子の波が大きく、初年度は順位戦でいきなり降級点を喫したが、それでも年度勝率は6割を超えたというユニークな若者だ。その不安定さを逆にバネとして、予選、本戦ともに4連勝で一気に駆け上がってきた。まだ実績は足りないが、この大舞台で弾ける予感を抱かせた。

 開幕戦は4月28日。偶然にもこの日は出口の27回目の誕生日だった。特別な日に待ち焦がれたタイトル戦への初登場。出口は、明らかに平常心を欠いていた。草履のまま対局室に上がり、座布団のそばまで行って初めて土足であることに気づいたという。

【次ページ】 藤井の不調説

1 2 3 4 NEXT
藤井聡太
出口若武
永瀬拓矢
豊島将之

ゲームの前後の記事

ページトップ