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《甲子園優勝監督対談》智辯和歌山・中谷仁と仙台育英・須江航が語る”Z世代論”「子供を叱ることに意味はない」「毎日、日替わりで面談」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKiichi Matsumoto / Hideki Sugiyama
posted2023/05/02 17:00
仙台育英の須江航監督(左)と智辯和歌山の中谷仁監督(右)。甲子園優勝を経験した両監督が語り合った
中谷 問題提起として必要だから、「指導者は怒ってはいけない」と思っている人が増えたからそのような大会が生まれたわけで、その是非については世の中がどんどん議論すればいい。僕らとしては答えを出すというより、時代の流れによって進化、変化していく事柄に対してどう対応していくかだと思います。
須江 ほぼ同じく、ですね。何でもやってみればいいと思うんです。指導者が怒っちゃいけないことが「正しい」と判断する人たちがいれば、「いや間違っている」と反論する人たちもいるわけで、それ自体は悪いことではないんですが、自分の価値観に合わないものを排除する動きって最近すごく多いですよね。そうではなくて、お互いに価値観を許容したり、理解を示すことによって学びとか変革が起きると思うんです。
2人が大切にしている「自己肯定感」
――須江監督の大きな指導方針として、練習試合や紅白戦での成績などを詳細に数値化し、選手と話し合って成長の方向性を決めています。その際に心掛けているポイントなどありますか?
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須江 僕はできる限り毎日、日替わりで選手と面談します。これはあくまで、彼らと話した上での僕の感覚的な項目になるんですけど、「自己肯定感レベル」を付けているんです。面談した時点でその状態が高いか低いかによって、「これを言ったら過信してしまうのでは?」とか「不調の自分に絶望しているかもしれない」とかいろいろ想定した上で、選手それぞれに対してコミュニケーションの質も変えるようにしています。手法は違っていても、仁さんのアプローチと根本は同じですよね。うちは1学年20人程度なんですけど、智辯和歌山さんはさらに少数精鋭だから、そういう環境なりの自己評価があると思うんです。「今は無理でも先輩たちが卒業すればレギュラーになれる」とか、その逆で、「後輩が入ってきたらチャンスがなくなる」みたいに。
中谷 まさにそうです。うちは試合に出られない選手のほうが各学年で少数派になっちゃうから、その子たちの自己肯定感を低くさせないように、諦めさせないように、と意識しています。うちや仙台育英さんとか強豪校と呼ばれる高校に入ってくる選手って、「できて当たり前」みたいな自信を持っちゃって、変に肩ひじ張りすぎている子がある程度います。そこでもしできないことがあろうものなら、指導者から怒られるより心のダメージが大きいと思うんです。中には「俺はもうダメだ……」と絶望しきって這い上がれない子もいます。できないことに直面した子に対しては、できないならできるようにするための道筋を明確化していますね。仮にパワーが足りなかったら、「3カ月後にウエートトレーニングの重量を20kgアップさせよう」と話し合って、計画を立てて、途中経過を見て到達できなそうならまた話して、計画を練り直して。子どもたちが少しでも工夫して練習できる環境は整えたいとは思いますね。
須江 実はそういうコミュニケーションのノウハウって最近すごく進んだと思うんです。大変不謹慎かもしれないですけど、そのきっかけって、やっぱりコロナで。今回の対談だってそうですよね。仙台にいる僕と和歌山にいる仁さんが、どこかで会わなくてもリモートで顔を見ながら話し合えている。何なら5年か10年、世の中が前に進んだ感覚があるというか、選択肢が増えたのは間違いないですよね。
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