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《甲子園優勝監督対談》智辯和歌山・中谷仁と仙台育英・須江航が語る”Z世代論”「子供を叱ることに意味はない」「毎日、日替わりで面談」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKiichi Matsumoto / Hideki Sugiyama
posted2023/05/02 17:00
仙台育英の須江航監督(左)と智辯和歌山の中谷仁監督(右)。甲子園優勝を経験した両監督が語り合った
中谷 大会が軒並み中止となって、選手たちに「どうする? みんな何がしたい?」と聞きました。選手たちは「日本一を目指すようなチームと試合がしたいです」と答えて、僕は大阪桐蔭、履正社、明石商業といった関西のチームから、中京大中京、星稜とか、世の中の状況を見ながら可能な限り、「試合させてもらえませんか?」と連絡を取りました。とにかく子どもたちの要望を叶えるために動くようになったというか。'21年を迎えてからは「甲子園を目指せなかった先輩たちに、日本一になって『やりました!』と報告できるのは君たちの代だけだぞ」みたいに話をしてきて。いろんなことを我慢しながら、「やりたいことを口に出していこう」と進んでいきましたね。
須江 僕らもまともな遠征って、それこそ智辯和歌山さんにお邪魔した去年がほぼ初めてくらいでしたから。去年の3年生って緊急事態宣言下で入学して、「未来は明るくないんじゃないか?」って不安のような感情を抱えながらスタートしたというか。だから仁さんの言う、コロナが流行してから選手への接し方が変わったというのは共感できます。選手たちに対する厳しさという点で、何か変わったりしました?
中谷 今の時代、指導者が「日本一のためにやるぞ!」って引っ張っていこうとしてもダメで、選手自身が考えて行動しないといけなくなりましたよね。4番バッターだ、キャプテンだと言っても、その責任を背負う選手自身は、チームメートから「人には言うくせに、自分はやってへんやん」みたいな目で見られることにすごく敏感になっていると思うんです。だから、厳しくするというより、「社会に出ても必要とされる人材を目指そうよ。そのためには……」みたいに説くことが多くなったような気がします。須江君はどう?
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須江 コロナを引き合いにすれば、理不尽なことが浮き彫りになったじゃないですか、子どもにとって。いくら感染拡大に配慮しているからといっても、「なんで僕らはまともに部活できないのに、大人はお酒飲んだり、旅行できるんですか?」とか。教育、医療、経済、それぞれに正義があり、正解がひとつではないのは理解しているのですが、とにかく大人の説得力に欠けた決定や振る舞いが多すぎて。僕としても上からものを言うのが申し訳なかった。だから、子どもたちがどう思っていて、何をしたいのか、話をとにかく聞くようになりました。
「Z世代」の選手にどんなアプローチで接しているのか?
――高校生も含まれる「Z世代」は大人から怒られることに慣れていなかったり、周りの目を気にして目立たないようにするといった平均志向が強いとも言われています。対話を重視するおふたりとしては、どのようなアプローチで選手と接していますか?
中谷 選手たちはまだ10代の子どもなので、間違った、誤った言動を取ることがどうしてもあります。そういう時、僕は「怒る」んじゃなくて、「自分たちが知らないことを学ぶいい機会なんだよ」と言葉を置き換えて伝えるようにしています。決して僕は社会で成功した人間ではないですし、「自分の考えが一番正しい」なんてこれっぽっちも思っていないんですけど、子どもたちには「わからないことを教わっている」と感じてもらいたいというか。人生の先輩として、「その言動、客観的に見てカッコ悪くない?」とか話してますね。
須江 それって、とても大事なことだと僕も思っています。子どもたちをただ叱ることに、僕はほとんど意味を感じていません。大人が叱ることに依存してしまうと、子どもの行動原理は「大人から叱られないようにするには?」となってしまう。だから僕は、「ダメなこと」と「改善したほうがいい理由」を丁寧に、何度でも丁寧に説明する必要があると思うんです。
――最近、小学生や中学生の世代において、様々な競技の「指導者が怒ってはいけない大会」を見かける機会が増えました。こういう大会の意義についてどう思いますか?