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「藤井聡太竜王はミスらしいミスが一手もない」A級棋士・中村太地34歳が驚いた名人戦、叡王戦先勝の妙手「序盤でもなるほど、と」 

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中村太地

中村太地Taichi Nakamura

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posted2023/04/27 11:02

「藤井聡太竜王はミスらしいミスが一手もない」A級棋士・中村太地34歳が驚いた名人戦、叡王戦先勝の妙手「序盤でもなるほど、と」<Number Web> photograph by Kyodo News

第81期名人戦に臨んでいる藤井聡太竜王と渡辺明名人

 さらに渡辺名人と藤井竜王の対局は〈2日制なのに、1日目でもうこんなに進んでしまうのか!〉と驚く展開もありましたね。その一方で名人戦第1局は、以下のような感じで時間を使っていました。

 22手目:藤井竜王39分/25手目:渡辺名人46分/28手目:藤井竜王98分

 何と言いましょうか、「こういう将棋の進み方、懐かしいな」と思ったほどです(笑)。冗談はさておき、序盤から分岐点が数多く存在したゆえに長考のし合いになった。力将棋になった証拠と言えるでしょう。

藤井竜王にはミスらしいミスが1手もないように感じた

 その対局において藤井竜王が先勝しましたが――対局全体を振り返っても、本当に〈ミスらしいミスが一手もない〉ように感じました。渡辺名人が攻めると藤井竜王が反撃する。藤井竜王が攻め込もうとすると今度は渡辺名人が……といった感じで一進一退の攻防を繰り広げていたんですが、個人的にハッとさせられたのは、82手目の「9八竜」という一手です。

 終盤に藤井竜王が反撃態勢に入って、飛車を成って最強レベルの駒となる「竜」を作りました。ここで藤井竜王は「竜を逃げておく選択」をしたんです。この一手は相手の渡辺名人に手番(相手陣に対して攻められる状態)を渡すことになります。反撃しているのだから一気にバッと攻めていこう、と感じるのが一般的ですし、もし自分自身がこの局面を迎えたとしたら「一手緩めたらダメなのでは?」と判断しそうかなと感じます。しかしここで藤井竜王は“いける”と判断して、素晴らしい攻めの組み立てを見せました。そこから優勢に持ち込んでからの決め方は非常に正確でしたね。

 最後の局面では94手目に「4八金」という手がありました。実はこの金なんですが、3手後に取られてしまうんですよね。でもこれを取られたとしても、最終的に自分の方に道筋があると見立てている指し方に、視野の広さとともに考え方がとても柔軟だなと私の目には映りました。

菅井八段「最高の振り飛車対最高の居飛車」に感じる覚悟

 そして名人戦第1局の5日後、叡王戦第1局が開催されました。2日制で持ち時間9時間の名人戦から中4日、さらに藤井竜王にとってはタイトル戦では初となる振り飛車党(序盤に飛車の位置を右から左に展開するタイプ。飛車をそのままの位置で戦うのが居飛車党)の菅井八段が相手です。ファンの皆さんも楽しみにされていると思いますが――菅井八段が覚悟をもって臨まれているのだろうなと推察します。

【次ページ】 第1局でなるほどと感じた、序盤の“ある手”

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