令和の野球探訪BACK NUMBER
元ぽっちゃり少年が劇的変身&投手歴1年の右腕にスカウト集結…甲子園出場ゼロの公立校からなぜ隠れた逸材が?「入学前は想像もできなかった」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2023/04/20 17:00
多くのスカウトが注目する幕張総合の早坂響(左)と高校通算30本を誇る安中総合の梅山大夢(右)。共に「プロ入り」を口にできるほど、急成長を遂げている
この2名のケースからわかるように、柳田監督の指導はいわば「外部委託」だ。高校野球の監督は、投手から野手まですべてを指導し「管理する」タイプも多いが、柳田監督は真逆のタイプと言っていい。
「人と人を繋げることの方が得意分野なんです。管理したくなる時もあるけど、信頼できる人に任せようと思っています」
積極的に外部の視点を用いることで個々の成長を促す一方、チーム全体の強化にも余念がない。長年にわたって、強豪校のもとに飛び込み多くの練習試合を実現。レベルの高い実戦の場を設定し、飛躍のきっかけを掴む機会を増やしてきた。
柳田監督は駒澤大OBでありながら硬式野球部には所属しておらず、選手としての実績はほとんど無い。しかし、それを逆手に取り、選手たちを多種多様の色に染め上げているのだ。
柳田悠岐を彷彿とさせるスイング
早坂のケースとはまた異なるが、群馬の公立校に大化けが期待される選手がいる。高崎市と長野県軽井沢町に挟まれた安中市にある県立安中総合学園(以下、安中総合)で3番を打つスラッガー、梅山大夢(うめやま・ひろむ)だ。
スイングはソフトバンクの柳田悠岐を彷彿とさせるほど柔らかく力強いもので、すでにホームラン数は高校通算30本。そのうち11本が木製バットで打ったものというから驚きだ。投げても140キロを超えるなど身体能力の高さを存分に感じさせ、NPB球団のスカウトが視察に訪れるまでに成長した。
とはいえ、全国を見渡せばこういった好素材は多数存在する。梅山に注目したのは、入学当時からの変貌ぶりである。
中学時代は9番打者だった梅山の入学時の体重は97キロ。写真を見れば一目瞭然だが、いわゆる“ぽっちゃり少年”だった。現在の姿からは想像もできないが、その成長に大きく寄与しているのが吉田省吾監督だ。
県内屈指の進学校である高崎高校から北海道大学に進み、現役時代は主に外野手としてプレー。大学卒業後に地元へ戻り教員となり、安中総合では指導して10年になる。同校は卒業後にすぐ就職する生徒が多く、進学率は決して高くないが、吉田監督は各選手に合わせた野球継続の道も探っており、3年前にはプロ注目選手として期待された右腕・清水惇を強豪の日本体育大学に、そして清水の同期である中島幸太を首都大学2部リーグの足利大学に送り出す(中島は足利大で4番を担う)など大学野球でプレーする選手も現在複数いる。就職希望者にはクラブチームを勧める場合もあり、野球を続ける選手が多い。