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元ぽっちゃり少年が劇的変身&投手歴1年の右腕にスカウト集結…甲子園出場ゼロの公立校からなぜ隠れた逸材が?「入学前は想像もできなかった」
posted2023/04/20 17:00
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Yu Takagi
・今春のセンバツ出場校/私立28校・公立8校(21世紀枠の3校を含む)
・昨秋のドラフト指名高校生/私立42名・公立10名
この2つのデータを見ると、高校野球界において「私立優勢」とされている理由がよくわかるだろう。上記の公立校の数字には、私立並みの環境を整える伝統校や甲子園常連校も多く含まれるため、それ以外の公立校との実力差はさらに大きい。
これらをふまえると「普通の公立校には“夢”がないのか?」と捉える人も少なくないはずだ。だが、高校生の成長というのは、決してそんな単純なものではない。今回は、従来とは異なる手法で選手を“変身”させた2つの公立校の事例を紹介したい。
投手歴1年足らずのドラフト候補
4月12日の千葉県営球場。春季県大会を前にした地区予選の会場にもかかわらず、スタンドにはNPBの8球団・総勢9名のスカウトが集まっていた。お目当ては、1人の投手である。
その名は県立幕張総合高校3年・早坂響。「響」と書いて「おと」と読む。
高2の5月までは捕手を務め、投手歴はわずか1年足らず。だが、そんな経歴が想像できないほど、勢いのあるストレートとキレのあるスライダーを次々と投げ込んでいく。これまでの人生では経験したことがないであろう多くの視線が注がれる中、この日は自己最速となる148キロを記録し、平均球速も140キロをゆうに超えていた。
ヤクルトの橿渕聡スカウトグループデスクは、早坂の評価をこう語る。
「素材が素晴らしい。まさに原石。ストレートは140キロを割りませんし、身体能力が高い。これからどこまで伸びるか楽しみです」
続けて他スカウトたちも「腕の振りが良い」「(冬場見た時に比べ)だいぶ投手っぽくなり、スライダーでもストライクを取れるようになりました」と揃って高評価を与えている。今はまだ暴投や四球を何度か出すなど、細かいコントロールに粗削りな姿を見せるが、その課題を払拭させるような大きな期待感を抱かせるインパクトを残した。