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大谷翔平の二刀流開花、WBC名采配…栗山監督の“信じる力”「色メガネで見るのは嫌いなんだ」「根本さんに『少しは頑張っているな』と」
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byNanae Suzuki
posted2023/04/15 11:01
侍ジャパンを世界一へと導いた栗山英樹監督。その采配は日本ハム時代から一貫している
「年も40になりますし、正直言って自分には後がない。今年で終わりかもしれない。それぐらいの覚悟を持ってシーズンに臨みました」
トレイ・ヒルマン監督の下で2006、07年のパ・リーグ連覇の立役者となり、首位打者や日本シリーズMVPを獲得し、毎年のように3割前後の打率を残してきた稲葉だったが――2011年は打率.262に終わり、自身のキャリアの終焉について考え始めていたようだ。しかし稲葉は栗山監督のもとでこのシーズン、打率.290、10本塁打、61打点、通算2000安打達成を果たすなど、円熟味を感じさせるシーズンを送った。キャンプ時に伝えられた栗山監督からの冒頭のメッセージを、プレーで体現した結果と言えるだろう。そのチームリーダーぶりを栗山監督もこのように話している。
「チームのためにプレーすることの大切さを浸透させてくれている」
そう評された稲葉も、侍ジャパンで監督として2019年のプレミア12優勝、2021年の東京五輪金メダルに導いたのも興味深い。
18歳の吉田輝星に“ゆっくりさせるつもりはない”
<証言2>
栗山監督のゆっくりさせるつもりはないというメッセージだったんだと思う。
(荒木大輔/Number975号 2019年3月28日発売)
◇解説◇
北海道に移転してからの日本ハムには、高校野球でヒーローになった選手が多い。その中でも特大の注目を集めたのは、吉田輝星だった。
2018年夏の甲子園、東北地方の公立校がほぼレギュラー固定のメンバーで全国の強豪校を撃破していって「金農旋風」を巻き起こした中で、吉田は絶対エースとしてマウンドに立ち続けた。ノビのある直球とマウンド度胸に高校ナンバーワン右腕との報道が出て、その年のドラフトで日本ハムの単独1位指名で入団が決まった。注目度の高さの一方で甲子園での“投げすぎ”による疲労がどれくらい残っているのか……という懸念があり、1年目の序盤は荒木二軍監督いわく「甲子園の状態に戻す。それが第一段階。そこまでのやり方は、本人がいちばんよく知っている。うちは甲子園の彼を評価して獲ったわけだから」との方針になった。
ただ栗山監督が早くから吉田に期待していたエピソードがある。それは2月のキャンプ中の紅白戦での登板を決断したことだ。結果は1回を投げて1本塁打2四死球といきなりプロの洗礼を浴びたが、その前の年には“高卒1年目の投手”をキャンプで投げさせていなかっただけに、早い段階でプロの力を体感してほしいとの狙いがあったのだろう。
みんなと一緒に喜べたことは誇りです
<名言2>
600回も最高の選手たち、みんなと一緒に喜べたことは誇りです。本当に幸せです。
(栗山英樹/NumberWeb 2020年8月30日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/844814
◇解説◇
栗山監督は10シーズンにわたって日本ハムの監督を務めた。プロ入り前は高校から直接アメリカへと渡ろうとしていた大谷翔平を日本ハムに迎え入れ、ルーキーシーズンから二刀流でプレーする環境とチャンスを整えていった。そんな中で大谷がその才能を完全開花させたことは誰もが知るところだ。
もちろん大谷だけではない。前述した稲葉らベテランや若手の力を引き出したし、2016年には日本一を経験した。その中で2020年に節目の勝利数に達したときには「600勝。この勝利はすべてみんながつくってくれたもの。こちらは何もしていないけれど……」と前置きしつつ、選手たちを立てて感謝の弁を述べていた。