ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
通算600勝よりも意識した599勝目。
栗山監督が根本陸夫から学んだもの。
posted2020/08/30 09:00
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph by
Kyodo News
野球には神様だけではなく、精霊も存在する。
終戦記念日の2020年8月15日――。高校球児が躍動する阪神甲子園球場では毎年、正午に試合が止まる。今年も黙祷のサイレンが、厳かに響いていた。日本中が戦没者への哀悼の思いを捧げる、特別な1日だった。
同じ日、北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督も、偉大で敬愛する故人を偲んでいた。その夜、監督就任9年目で通算600勝の金字塔を達成したのである。
酷暑の敵地ZOZOマリンスタジアムで、快勝で節目を飾った。三塁ベンチに勢ぞろいした選手たちからはスタンディングオベーションで送り出され、照れくさそうにグラウンド上で記念のボードを掲げていた。
千葉ロッテマリーンズのファンからの温かい拍手も降り注いだ。その後、球場内の食堂に全員が集合し、身内だけのささやかなセレモニーが開かれた。
乾杯の前に、選手たち、スタッフたちへと語り掛けた。真っ直ぐな謝辞だった。
「600勝。この勝利はすべてみんながつくってくれたもの。こちらは何もしていないけれど、600回も最高の選手たち、みんなと一緒に喜べたことは誇りです。本当に幸せです」
「本当に意識はしていなかったんだよね」
その後、取材対応するためにグラウンドへと再び、足を向けた。すべてを終えてバックヤードへと戻るまで、広報として同伴していた。その時だった。「おめでとうございます」と声を掛けさせてもらった時に、思いがけず秘めていた胸中を知ることになった。
「600という数字は、本当に意識はしていなかったんだよね。ただ599勝した時は、ちょっと自分の中で思うところがあったなぁ。根本さんは、意識はした。598勝でしょ。そこは1つ目指していたところではあったから」