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野球クロスロードBACK NUMBER
「打たれたら叩かれる」ピンチで登板も“WBC防御率0.00”…秋吉亮が明かす“何を考えて投げていた?”「スタントンと対戦したかった(笑)」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2023/03/09 17:00
2017年WBCに出場した秋吉亮が明かす舞台裏とは
ヤクルトの試合でも、ブルペンからずっと見ている。バレンティンはインコースのボールに対して体を大きく開いてスイングする傾向があり、直後に外角へ投げれば打ち取れる可能性が高い。ポイントは「どこで内角を意識させられるか?」だ。秋吉は対策をキャッチャーの小林誠司と擦り合わせた。
「スライダーを張ってるだろうな」
2球続けて外角低めの際どいコースにスライダーを投げるも見逃され、2ボール。3球目。外角ながらストライクゾーンに甘く入ったスライダーに反応され、レフト方向への痛烈なファウルと冷や汗をかくが、ここそとばかりにバッテリーは呼吸を合わせる。4球目。インハイのストレートにバレンティンにバットを出させ、ファウルでカウントを稼げた。
布石は打った。秋吉が小林のサインに首を振り選んだのは、外角低めのシンカー。狙い通り、バレンティンのバットは空を切った。
「バレンティンが外角のスライダーを狙ってるのが分かってたんで、同じコースでもあえて逆の変化を選択しました。快心でしたね。狙って三振を取れたかなって」
WBCに挑むに際し、秋吉には「抑えれば評価される」「打たれたら叩かれる」と、両方の未来が混在していた。それがこの頃になると、右腕に自信を宿すようになっていた。
次の試合のキューバ戦でも、5-5の同点の8回に出番が回ってきた。巨人でプレー経験のあるフレデリク・セペダ、この年にロッテからソフトバンクに移籍したアルフレド・デスパイネ、グラシアルと、強力クリーンアップが並ぶイニングを1安打無失点。直後にチームが勝ち越し、秋吉は勝利投手となった。
秋吉はWBCでのハイライトに、このオランダ戦とキューバ戦を挙げている。そこに「いい経験」として加えた試合が、決勝ラウンド準決勝のアメリカ戦だ。
あのアメリカとの準決勝で…
ロサンゼルス・ドジャースの本拠地、ドジャー・スタジアム。
レフトポール付近のブルペンからマウンドに向かう途中に聞こえる、アメリカ人の声――きっと声援ではないとわかりながらも、野球の本場に来たのだと実感できた。マウンドから見える光景も圧巻だった。バックネット裏のスタンドは4階のトップデッキまで、まさにそびえ立っているようだった。
そして、なにより対峙したバッターだ。
1点を追う9回、1アウト二塁。失点が許されない場面で秋吉が最初に迎えたのは、ピッツバーグ・パイレーツの中心選手であるアンドリュー・マカッチェンだった。初球からストレートを2球、スライダーを2球。外角中心の配球でショートフライに打ち取った。そして、サンフランシスコ・ジャイアンツで正捕手を務めるバスター・ポージーも、2球でファーストフライに仕留め、務めを果たした。
秋吉が「いい経験」を呼び覚ます。