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「砂嵐が来襲したら中止」「アジアから参加は私一人」初心者ランナーが酔った勢いで応募→“サハラ砂漠のマラソン大会”に挑んだ話
text by
高野秀行Hideyuki Takano
photograph byGetty Images
posted2023/02/18 11:00
アルジェリアの砂漠にある西サハラ難民キャンプ。「サハラ・マラソン」は2001年に初めて開催された
期せずして“アジア代表”に…
記者会見場は世界からの猛者でごった返していた。
ディエゴ(編注:大会の主催者)がスペイン語と英語の両方で説明してくれるのでありがたい。それによれば、今回の大会には計二十八カ国の人が参加している。
「ヨーロッパのほぼ全ての国、アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、そして日本」と彼が言うと、軽いどよめきが起きた。
なんと、アジアから参加しているのは私一人だった。あの広大で四十億人が住むアジアの中で私だけなのである。
すごいことではないか。日本代表どころじゃない。私はアジア代表なのだ。
ここに来てから初めて「やっぱり参加してよかった」と思った。
私が参加することで、ディエゴたちは「ヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカ、オセアニア、つまり世界の全地域から参加者が集まった」と言えるわけである。アジアがないのとあるのとではアピールの力がちがう。それだけでも私は確実に役に立てたといえる。どうやら今大会にかぎらずこのサハラ・マラソン史上初のアジア人でもあるらしいから、もしかすると偉業なのかもしれない。だが、アジア代表ということは私がもし途中棄権をしたらその瞬間「アジア勢全滅」ということになる。嫌だなあ、それも。もうここでお役御免にしてもらいたいくらいだ。
ディエゴによれば、今大会の参加者は外国人が五百人以上、サハラ人が四百人以上、アルジェリア人が八十人以上で、それぞれ過去最高の人数を記録したという(正確な人数が数えられていないのは、この大会がてきとうだからである)。
フルマラソン参加者はそのうち二百三十人以上。やはりフルマラソンは「選ばれた人」的な感じがする。しかし、真に驚くべきはサハラ人の選手がフルマラソンに二十人以上出場するということだ。
マラソンは裕福な人のやることである。例えば、世界中でジョギングの習慣をもつ人はほとんどが先進国の人間だ。アジア、アフリカで趣味や健康のためにジョギングなんかしている人はめったに見かけない。いたとすれば、富裕層に間違いない。