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「砂嵐が来襲したら中止」「アジアから参加は私一人」初心者ランナーが酔った勢いで応募→“サハラ砂漠のマラソン大会”に挑んだ話
text by
高野秀行Hideyuki Takano
photograph byGetty Images
posted2023/02/18 11:00
アルジェリアの砂漠にある西サハラ難民キャンプ。「サハラ・マラソン」は2001年に初めて開催された
「砂嵐が来襲したら中止」
説明会がはじまった。
それによれば、ドリンクは自分で身につけていくのならOKだが、給水所に預けることはできない。
「給水所では、水の他にバナナやナツメヤシを用意する」と聞き、私は安堵した。
そのほか、大会に関する注意事項として、「砂嵐の場合」というのがサハラ・マラソンらしい。砂嵐がレース前に起きたら翌日に延期、レース中に砂嵐が来襲したら中止とのことだ。
「レース中に砂嵐に襲われたら、絶対にその場を動かないように。レース中止の合図が聞こえたら、必ず走るのをやめるように」と、終始穏やかなディエゴはそこだけ強い口調で繰り返した。
ちなみに、十年この大会を主催しているディエゴからの個人的なアドバイスは「とにかく水をたくさん飲むこと」。
救護班が車でレースコースを巡回しているので、体調のわるくなった人はそこに収容される。
「そのほか、ランナーには医者が何人もいる。もし自分の体調が心配なら彼らの近くを走るように」とディエゴは冗談で締めくくり、会場は笑いに包まれた。
日本人クルーの撮影許可も…
このあと「メディア」に対するブリーフィングがあり、竹村先輩と宮澤カメラマンの日本人クルー二人組は明日のマラソンで、取材車両を用意してもらえることになった。英語の通訳もつけてくれるというサービスぶりだ。
てっきりマラソンの撮影はできないと思っていた先輩たちは当然喜んだ。私も表面上は「よかったですね!」と先輩たちに言ったのだが、内心では「これじゃ俺がボロボロになる姿がもろに撮影されちゃうじゃないか……」という思いが渦巻き、素直に喜べたものではなかった。
夕食会は、パスタを中心にしたごく簡単なもの。もちろん酒などない。アルジェリアはかなり厳しい禁酒の国である。三百六十五日酒を飲んでいる私も今日ばかりは酒を飲む気にならなかった。
早々に家に戻り、八時には寝た。〈つづく〉