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〈将棋の反則負け・ポカの背景〉“小2の藤井聡太くん”や大山康晴、米長邦雄も経験…羽生善治が大一番で味わった“大逆転負け”とは
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2023/01/24 11:01
羽生善治九段と藤井聡太五冠の王将戦で盛り上がる将棋界。その一方で誰もが衝撃を受ける反則負けなどが起きたことも(代表撮影)
第3図は、2004年のNHK杯戦・豊川孝弘六段とT五段の対局の中盤の部分局面である。
形勢不利な豊川が苦しまぎれに▲2九歩と竜取りに打った手は、二歩の反則だった(2三に歩がいる)。
豊川は局後の検討で形勢や二歩について「アカン(阿寒)湖」と無意識に口走ったという。その後、将棋番組の解説で「先手が優勢(郵政)民営化」「両取り(オードリー)ヘプバーン」「大駒を切り(キリ)マンジャロ」などと、ダジャレを飛ばすキャラで人気棋士になった。
第4図は、2016年の将棋日本シリーズ・郷田真隆王将と佐藤天彦名人の対局での終盤の部分局面である。
郷田が▲6三歩と桂取りに打った手は、二歩の反則だった(6八に歩がいる)。
以上の2例の共通点は、同じ縦の筋にいる歩と二歩の手の位置が離れていた、秒読みに追われていた、ということが考えられる。また、二歩の手には、えてして指したい好手が多く、それに惹かれて落とし穴にはまりがちだ。
第5図は、2006年のC級1組順位戦・小林健二九段と小倉久史七段の対局での終盤の部分局面である。
小林が打った▲9二歩の王手は、わずか二段差という珍しい形の二歩の反則だった(9四に歩がいる)。しかも6分も考えての着手だ。先の手を読んでいるうちに、盤面の一部が見えなかったのだろう。
藤井五冠も「研修会」の頃に…羽生九段の「頓死」って?
第6図は、二歩以外の反則の参考例である。
Aは「7七角」が成れない四段目に▲4四馬(角成)と指した反則。
Bは「8五桂」がチェスの「八方桂」のように、▲6四桂と指した反則。
Cは持ち駒の銀を▲2五成銀と裏側に打った反則。
実は藤井聡太五冠も小学2年の頃、「研修会」(奨励会の予備校的機関)の対局で、必勝の局面でAのような手を指して反則負けしたことがあった。当時は負けるたびに大泣きしたが、ある人が「あの羽生さんも1手頓死で逆転負けしたことがあるよ」と慰めると、藤井は「ほんとに?」と言って泣き止んだという。
そんな羽生善治九段の対局についても触れよう。