酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
藤浪晋太郎の“大谷翔平級”アスレチックスでの覚醒に期待したい…「フジと呼んで、フジサンみたいに!」と英語でつかみはOK
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph bySipa USA/JIJI PRESS
posted2023/01/21 17:02
阪神タイガースからアスレチックスへ。藤浪晋太郎は心機一転メジャーの舞台で覚醒となるか
肩、肘、腰などに深刻な故障をしたわけではない。しかし制球が乱れ、四死球を連発して降板するようなマウンドが多くなった。2016年以降、7シーズンに及ぶ長い低迷は、フィジカルよりメンタルの問題が大きいのではないかとの見立てもあった。
3年目までの成績を再掲し、4年目から2022年までの成績を比較する。
<3年目まで>
77試合35勝21敗499.2回519奪三振、防御率2.86
<4年目以降>
112試合22勝33敗494.2回492奪三振、防御率3.97(11ホールド)
藤浪は投げられなくなったわけではないが、以前に比べて冴えないマウンドが7年も続いていた。今オフに実施された「現役ドラフト」の有力候補と言われたが、藤浪は球団と交渉して、ポスティングでのMLB挑戦を選択した。
二軍マウンドで見た恐ろしいほどの勢いのボール
宜野座村の阪神・春季キャンプでは、数年前までブルペンがオープンになっていて観客席が設けられ、一般のファンも投手の迫力ある投球練習を間近に見ることができた。
筆者はここで藤浪の迫力満点の投球を何度も見た。ストライドは恐ろしく広く、そこから上体をぐっとかぶせて、恐ろしいほどの勢いのボールを投げ込んだ。リリースポイントはホームベースから非常に近く感じられた。その一方、巨体は意外に柔軟でゴムのような伸びを感じた。さらにサブグラウンドでの守備練習では屈託ない笑顔を見せていた。筆者は関西人特有の親しみを込めて「藤浪はええ子やなあ」と思ったものだ。
鳴尾浜や甲子園の二軍戦、藤浪の登板する日には多くのファンが詰めかけており、藤浪は二軍の打線を相手に圧倒的な投球を見せた。捕手のミットはバチャっとすごい音を立て、打者のバットにボールが当たる気がしなかった。
「こんなにすごいのになあ、何で活躍でけへんのやろ」
こうファンは語り合っていた。2020年のコロナ感染の経緯では、社会の非難を浴びたこともある。当時の行動規範から外れた前提はあるとはいえ、巡り合わせの悪さもあった。いろいろな人からアドバイスを受け、練習法も見直すなど努力を続けてきた藤浪だが、一番必要だったのは「空気を換える」ことだったのかもしれない。
大谷に続き「NPBよりMLBで成績アップ」となるか
NPBからMLBに移籍した選手の成績は、ほとんど下落する。近年、NPBで際立った成績を挙げていない藤浪が、MLBでそれを上回る成績を挙げるとは考えにくいのが正直なところだ。
しかし唯一、その「NPBとMLBの交換レート」を打破した選手がいる。
藤浪のライバルである大谷翔平だ。潜在能力を秘める藤浪なら、大谷のような大化けをする可能性もなくはないだろう。
藤浪が加入したアスレチックスを実質的に取り仕切るのは、「マネーボール」で有名な前GMのビリー・ビーン副社長である。気が短いことで知られ、選手をバッサリ切ることも厭わない。西武から移籍してついにメジャー昇格できなかった中島裕之(現・宏之/巨人)といった例もあった。
ましてやアスレチックスは昨シーズン、ア・リーグ西地区でアストロズと46ゲーム差の最下位に終わるなど、チーム全体が「解体モード」だ。藤浪に与えられた時間は長くはない。それでもみずみずしいイメージのままに、スプリングトレーニングから活躍してほしい。
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