酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
藤浪晋太郎の“大谷翔平級”アスレチックスでの覚醒に期待したい…「フジと呼んで、フジサンみたいに!」と英語でつかみはOK
posted2023/01/21 17:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Sipa USA/JIJI PRESS
阪神・藤浪晋太郎のアメリカン・リーグ西地区、オークランド・アスレチックスへの移籍が決まった。1月17日には現地での記者会見が行われ、ちょっとドキドキしながら報道を見ていた。
筆者が思い出したのは、2007年、阪神タイガースからニューヨーク・ヤンキースに入団し、現地で会見をした井川慶である。
ヤンキース井川はMLBへの適応に苦しんだ
当時の最大の話題は、西武ライオンズから5111万ドル余(当時のレートで約60億円)という巨額のポスティングフィーでボストン・レッドソックスへの移籍が決まった松坂大輔だった。松坂の移籍は日米で大きな話題となり、入団会見は華やかな空気に包まれた。
井川もポスティングによる移籍だったが、その金額は2600万ドル余と松坂のほぼ半額。しかしヤンキースはライバルのレッドソックスに負けない補強をしたと主張していた。ある意味、松坂以上の期待感を持たれていたが――入団会見で井川が口にしたのは中学生がカタカナを読んでいるような、たどたどしい英語だった。
井川慶のMLBでのマウンドは、期待を大きく裏切るものとなった。
デビューとなった4月7日のオリオールズ戦で5回を投げて7失点。3戦目でMLB初勝利を挙げるも、5月4日の6戦目のマリナーズ戦で5回8失点するとマイナーに降格、6月に復活するもこの年は2勝3敗防御率6.25、翌年は2試合メジャーで投げたが以後はマイナー暮らしを余儀なくされた。2年間で16試合2勝4敗71.2回、防御率6.66だった。
端的に言えば、井川慶はMLBの野球に適応することができなかった。ニューヨークのメディアはヤンキースの井川獲得を「歴史的な失敗補強」とまで言った。
井川の入団記者会見が、その後のパフォーマンスを象徴していると言うのは短絡的に過ぎるとは思う。ただ井川側から見ると「メジャー挑戦前の準備不足」があったと言えるし、またアメリカ側も井川に対してポジティブな感情を持たなかっただろう。
〈Please call me FUJI, like Mt.Fuji〉
その過去もあって、果たして藤浪はどんなメッセージをアメリカのファンに向けて発するのか。そこに注目した。
冒頭でアスレチックスのデビッド・フォーストGMが藤浪を紹介した。ユニフォームを着せかけられると、藤浪はユニフォームのボタンをはめて着席しなおし、おもむろに話し始めた。