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「たぶん、彼はずっと挑戦し続ける」羽生結弦と関係の深い音響デザイナー・矢野桂一が、「羽生の演技には絶対的なものがある」と語る理由
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2023/01/23 17:02
平昌五輪フリーの『SEIMEI』を終え、晴れやかな笑顔を見せた羽生結弦
羽生の演技には「絶対的なものがある」と語る理由
音響として携わり、数々の編曲も手がけてきた矢野氏とフィギュアスケートとのつきあいは長い。数多くの大会やアイスショーに触れ、多くのスケーターの演技を目にしてきた時間を踏まえ、羽生についてこう語る。
「三十何年という時間、フィギュアスケートの演技をずっと見てきた中で、思っていたことがあります。自分のプログラムなんだから、音楽の物語を作るというか、自分のストーリー性を持って、もっと音楽に対する意識を持ってほしいとずっと思っていました。やっぱり音楽と違う振り付けがついていたりすると、心地よくなかったり、ジャンプが崩れたあと、ずれたままのこともありますから。でも彼は全然それがなくて、ほんとうに『その音まで捉える』、というくらいの振り付けなのですね。
彼のプログラムは音とのシンクロを図るというか、音に合わせた振り付けであるべきだという絶対的なものがあります。僕ら音響も、滑っている選手とお客さんに同時間で音が届くようにいつも取り組んでいます。ずれて届いてしまうと、フィギュアスケートのよさが出ないので。演技も、肝になる音や一瞬の間に動作がぴたりとはまっていれば、見ていてやっぱり気持ちいいと思います。だから彼の演技は見ていて気持ちがいいんですね。そういうスケーターはなかなかいなかったですし、すごいなと思います」
「たぶん、彼はずっと挑戦し続ける」
プロスケーターとなった羽生に対して感じる変化はあるのだろうか。
するとこう答えた。
「基本的にスケートに対する思いは変わっていない、選手時代と同じだと思います。むしろよりストイックになっているようにも感じます。ふつうはプロになれば若干高難度のジャンプであるとか、そういうところは落としていくものだと思うんですけれども、たぶん、彼はずっと挑戦し続けると思うんです。これからも4回転ジャンプを、ゆくゆくは4回転アクセルもプログラムの中で見られるんじゃないかなとも思っています。心配なのは怪我ではありますが、体が続く限りは今の状態よりもっともっとレベルアップしていくんじゃないかな」