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羽生結弦の“気遣い”に音響スタッフも驚いた…アイスショーも担当した矢野桂一に“羽生が掛けた一言”「そういう風に思ってくれてたんだな」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2023/01/23 17:01
2019-20シーズンなどで使用された『Otonal』は、プロローグの準備で苦戦したプログラムでもあった
矢野氏が羽生本人から掛けられた“ある一言”
「横浜公演では、センターにスピーカーを吊ることが可能でした。いつものフィギュアスケートのプランと同じように、センターを起点、いわゆる『点音源』を中心として、周りにあるスピーカーにディレイをかけて音が1つになるようにすることができました。ただ八戸の会場の場合は、センターにビジョンがあったため、それができませんでした。ビジョンの周りに羽生選手へのモニターとして4つのスピーカーを下向きに吊り、そこを『ゼロ』とした上で、客席に向けてスピーカーをつける形をとりました。彼には『いつもの点音源じゃないから、1つにまとまった音で聴こえないかもしれない』とは伝えてありました。それに対して、彼は『矢野さんだから大丈夫です』と言っていました(笑)」
横浜、そして八戸公演を含めて、音響に関するリクエストなどは何もなかったという。
「心地よく聴こえていれば何も言わないので、大丈夫だったということでしょう」
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さらにはこんな工夫もあった。
「公演ごとのお客さんの熱量と言いますか、それに応じて音量を若干修正したりもしていました」
スタッフが慌てた一幕もあった、と笑う。
「横浜公演の2日目、リクエストコーナーで急きょ2曲やることになりました。そのうちの『Let‘s Go Crazy』ですが、やる場合には曲のここから流すと前もって決めてあって、それでスタンバイしていました。ところが本番では『ここから』と羽生さんから違う箇所を指定されたので、とっさに理解できなくて『どこから曲をかける?』『どうしよう』みたいになりました。照明スタッフも困っていましたね」
羽生から矢野に伝えられた「感謝」
八戸公演の千秋楽では羽生がサポートしてくれた関係各位に感謝を伝える場面があった。その中に矢野氏の名前もあった。
「まさか名前が出るとは思わなかったので、ちょっとびっくりしたんですけれど、でもうれしかったですね。そういう風に思ってくれていたんだな、というのが」
矢野氏は顔をほころばせた。そして羽生結弦というスケーターへの思いをあらためて語り始めた。《つづく》
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