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羽生結弦は涙を浮かべていた…アイスショー八戸公演で見せた“魂とクオリティの90分間”に、記者は再び驚いた「28歳はプロだけの自分になる」
posted2022/12/06 17:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
万雷の拍手のもと、涙が浮かんだ。
「例えば2021年の全日本選手権でも思ったんですけど、これだけの歓声だったり多くの視線を浴びながら滑ることって、あとどれくらいあるんだろうっていうふうに正直思いながらあの頃は滑っていました」
羽生結弦の言葉が杞憂であったのは、この日の光景が伝えていた。
何度見ても変わることのない鮮烈な印象
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11月4日に横浜で開幕した「プロローグ」が、12月5日、青森県八戸市で千秋楽を迎えた。
横浜、八戸を通じて、全体の大枠をかえず、披露するプログラムは少しアレンジされたが、共通していたのは、横浜でも八戸でも圧巻というほかない時間だった。二度観てもかわることのない鮮烈な印象だった。構成や演出をはじめ、自ら考えたという約90分間は、クオリティの高さをあらためて示していた。
6分間練習から始まる幕開けから、横浜同様、高揚と高い緊張感に包まれた。
スタートは『SEIMEI』。その後にはこれまでの数々のプログラムが続く。『CHANGE』は中村滉己氏の津軽三味線の生演奏とともに披露。さらに会場内のリクエストで選んだ『Otonal(オトナル)』、YouTubeのリクエストによる『シング・シング・シング』。
『悲愴』『ロミオ+ジュリエット』と2011-2012シーズンのショート、フリーのプログラムが続き、新プログラム『いつか終わる夢』でつなげると、締めくくりは『春よ、来い』。アンコールでは『パリの散歩道』と『ロシアより愛を込めて』。10のプログラムを演じた。
肉体面以外の“体力”もすごかった
あらためて目をひいたのは、まずは一人で長丁場を走り切る体力だ。4回転ジャンプやトリプルアクセル、さらには競技生活にあっては封印していたビールマンスピンなども交えた高いレベルでの演技を滑り切ったこともそうだが、ここで言う体力は、肉体的な部分にとどまらない。
「常に休む暇もなくずっと滑り続けなきゃいけないですし。あとはプログラムによっていろんな気持ちの整え方だったり、届けたいメッセージだったり、いろんなことがあるので、そういう切り替えもいろいろ大変だったは大変だったと思います」
1つ1つがそれぞれに、羽生にとって大切なプログラムであり、そこに込める心情も並々ならないものがあるのが伝わってきた。その中で完走する精神的な体力もまた、特筆すべき点だ。1つもミスのないジャンプの精度を誇ったことも含め、節制と鍛錬、練習の日々、重ねてきた経験が公演の中に立ち込めていた。