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高校野球で「年間通じたリーグ戦文化」づくりは可能か 慶應義塾高の監督らが語る「次のステージ」「一緒に野球をする仲間」の大切さ 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2022/12/24 06:01

高校野球で「年間通じたリーグ戦文化」づくりは可能か 慶應義塾高の監督らが語る「次のステージ」「一緒に野球をする仲間」の大切さ<Number Web> photograph by Kou Hiroo

慶應義塾高校の野球部としての取り組みは興味深いものがある

「このルールで試合をしたのはLigaが初めてです。もともと公式戦でも球数を気にはしていましたが、それは体力的な目安という意味でした。“あと何球しか投げられない”と意識しながら投手を投げさせるのは初めての経験ですね。試合ではマネージャーには “あと何球?”と何度も聞きましたが、今までとは感覚が違いましたね」

 森林監督がLigaで最も有意義だと感じているのは、試合後の「振り返り」だ。両チームの選手がプレーについて話し合う機会だ。「スポーツマンシップ」の考え方に則って互いのプレーを評価し合い、交流を深める目的で行われる。

「普段の練習などでも、その後に振り返りができればいいんですが、帰宅する時間もありますからなかなかできないんですね。Ligaの場合は、試合が終わって『振り返り』をするところまでがセットになっています。これが結構大きいなと思っています。

 試合の振り返りを相手の学校とすることで、試合、野球に対する多角的な見方ができる。“こっちはこういうつもりでプレーしていたのに、相手はこう思っていたんだな”とか“こういう考えで配球していたけど、打者からはこう見えていたんだ”とか、相手の視点が加わるとより深い野球の理解につながると思います。さらに『振り返り』をすると、チームを超えた仲間意識というか、“俺たち一緒に野球をやっている仲間だよね”といった感覚が芽生えます。

 たとえば東京六大学だと、大学が違ってもみんな仲間意識があって、同期は皆さん本当に仲がいいんですね。そういう交流の中 では自分が所属している大学はあまり関係がなく、一緒に野球をする仲間になります。お互いに試合で切磋琢磨してきたライバル同士だから、余計に親しくなるというか、連帯感ができるんですね。

 トーナメントの高校野球の場合、一戦必勝ですから相手校の選手はどうしても“倒すべき敵”になってしまいます。それがリーグ戦になると、もちろん勝利を目指すにしても、一緒に野球をやっている仲間意識が生まれるんですね。選手の反応も、やはり相手チームを見る見方が変わりましたとか、そういう声が大きいですね。この部分は、リーグ戦を始めたときから狙っていた効果ですね」

ポジションによって雰囲気が違うのが面白い

 試合が終わって、慶應義塾高校と相手校の選手は、ポジションごとに集まって『振り返り』を始めた。

 ポジションによって雰囲気が違うのが面白い。捕手は顔を寄せ合ってひそひそと話し合っている。投手の集まりでは、突然ある選手が立ち上がって牽制の動きをすると、もう一人がこれに応じるように別の動きをする。ずいぶん盛り上がっている。

【次ページ】 「スポーツマンシップの学びも役に立ちました」

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森林貴彦
慶應義塾高校

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