フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
24歳のベテラン・宇野昌磨がたどり着いた「境地」とは? 圧巻演技の後に明かした“アスリートの道”「先に表現を…は自己満足なので」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2022/11/17 17:01
優勝を果たしたスケートカナダでの宇野昌磨の演技
だが「世界チャンピオンになったことで、何か変わったか」と会見で聞かれた宇野は、淡々とした表情でこう答えた。
「変わったところはないです。昨年1年の練習、特に後半はすごく良い練習ができているので、それを続けていけばもっと先には成長した自分があるんじゃないかなと思っています」
世界チャンピオンになったところで、宇野のモチベーションは少しも翳っていない。彼を突き動かしているものは、「もっと成長した自分」という目標なのだ。
特別な表現力の根源は「育った環境」
今季の新フリーは宮本賢二氏振付の「G線上のアリア」などのバロック音楽を用いた美しい作品だ。4回転を5本という究極の難易度の構成であることを忘れさせる、一つ一つのメロディを丁寧にすくい上げるような演技だった。だが本人はまだまだ満足していない。
「今のフリープログラムを自分で見ると、やはりジャンプのことばかり意識してしまう部分はすごくあって、もっと表現にも力入れたいなと思うんですけど……まあでも僕は、競技スポーツをやっている以上、より点数がもらえる方を先にやるっていうのは必要なことだと思っています。先に表現をやってしまうというのは自己満足になってしまうので……どうしても僕の頭の中でジャンプになってしまっているのかなっていうのはありますね」
スケートカナダの競技終了後にそう語った宇野だが、彼の言葉とは裏腹に、次のジャンプのことを考えながら滑っているようには全く見えなかった。この彼の表現力は天性のものなのか。そう聞くと、宇野は「表現が良いって言っていただけるのは、すごく嬉しいんですけれど……」と、少しはにかみながら答えた。
「それは本当に生まれ持った、っていうのはなんか難しいですけれど……まあ育った環境なのかなと思います」
言葉少なにそう答えた宇野だが、祖父が著名な画家であることを考えると納得がいく。おそらく芸術的なものが常に身近にある環境に育ったのだろう。