もし“最近、逃げ馬が強い”と感じている競馬ファンがいれば、それは正しい。逃げ馬の期間別勝率('22年9月末までのJRA芝重賞が対象)は、'01~'10年=10.8%、'11~'20年=9.6%に対し、'21年以降=13.4%と明確に上昇。パンサラッサ、タイトルホルダー、ジャックドールと個性派逃げ馬が一気呵成に台頭した。彼らが逃げ切る時、我々はいつも往年の逃亡者たちの思い出をその勇姿と重ね合わせる。なぜ逃げたのか、どう逃げたのか。本稿ではその理由と方法で、当代と歴代の逃げ馬を分類し、「逃げ」について考える。
なぜ、強い逃げ馬が立て続けに現れたのか。はじめに、JRA騎手歴代10位(10月14日時点)の通算1823勝を挙げた“逃げの名手”中舘英二(現調教師)にヒントを求めた。
「競走馬のスピードを追求してきた結果だと思います。それは厩舎だけではなく、牧場での配合、馴致もそう。全体のレベルが上がり、早い時期からしっかりしている馬が増えたことが大きい。体のどこかに緩さがある馬は逃げられませんから」
確かに、サイレンススズカやツインターボ、キタサンブラックのようなレジェンドは若駒時代から大器の片鱗を見せていたが、逃げ馬としての本格化は古馬になってから。大レースでスタートからゴールまで先頭を走り続けるには強靱な肉体が不可欠だと分かる。調教技術の進歩などでその領域に達する馬が増えているのかもしれない。
また、類いまれな瞬発力を産駒に伝え、強力な差し馬を数え切れないほどターフに送り出した大種牡馬サンデーサイレンスとその後継ディープインパクトがこの世を去った影響も大きいと考えられる。パンサラッサ(ロードカナロア)、タイトルホルダー(ドゥラメンテ)、ジャックドール(モーリス)の父は揃って非サンデーサイレンス系。偶然の一致ではないだろう。
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