酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
吉田正尚・村上宗隆だけではない“日本シリーズ神宮決戦のカギ”は「急造クローザー」と… ヤクルトvsオリックス成績を徹底比較
posted2022/10/29 06:00
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Hideki Sugiyama
一塁側、サンドウィッチマンに3人目がいたらこの人じゃないか、みたいなごつい体格をした男性が、ピンクのフリース姿の背中を丸めて、何事か祈っている。足が震えている。周囲はみんな同じ姿勢。その矢先に吉田正尚のバットが一閃して、サヨナラ本塁打が生まれた。
中嶋聡監督の「勝負勘」が狂い始めたのではないか、と思わせた試合ではあった。
3-4と逆転された6回裏、先頭の7番太田椋が二塁打で出塁すると、中嶋監督はここまで二塁打、安打と当たっていた8番紅林弘太郎にバントをさせた。
この采配には観客席からも「えー?」との声が上がった。バントの打球は捕手中村悠平の前に転がり、太田は三塁でアウト。9番若月健矢が三振で上位に回ると、1番佐野皓大に代えて福田周平を打席に送る。佐野は前日の試合で先頭打者としていい当たりの二塁打を打っていた。これに対し福田は9打席無安打。結果的に福田は安打を打ったが、首をかしげたくなる用兵だった。
そしてこの日は宇田川優希、山﨑颯一郎という快速セットアッパーを外して、43歳の能見篤史をベンチ入りさせていた。「左の救援がいない」という事情があるにせよ、絶対に負けられない試合の陣容として疑問が残った。
しかし、吉田正尚のバットは「指揮官の迷い」を吹き飛ばした。球場を埋め尽くした3万3135人のファンはひと風呂浴びたような上気した顔で、球場を後にした。
村上がマクガフを励ましたシーンも感動した
ただ、筆者がこの試合でいちばん感動したのは9回裏1死一塁、緊張のあまり俯いたクローザーのマクガフに一人近寄った三塁手の村上宗隆が、彼の背中に手をまわし、抱きしめんばかりの力強さで励ましたことだ。22歳の村上は、3日後に33歳になるマクガフをチームリーダーとして鼓舞したのだ。なんて立派な選手だろう、と思った。
さて激闘の5試合を数字で振り返ろう。
対戦成績は2勝2敗1分 ヤクルト19得点 オリックス14得点。
<打撃成績>
ヤクルト185打51安6本19点5盗 率.276
オリックス178打45安2本12点3盗 率.253
<投手成績>
ヤクルト2勝2敗1S8H46.2回21球33振 率2.31
オリックス2勝2敗1S7H47回19球50振 率3.45
投打ともにヤクルトの方が成績が良い。第3戦で7-1と大勝したことが大きいが、本塁打はヤクルト6本に対し、オリックスは第5戦での吉田正の2本だけ。オリはタイムリー欠乏症だった。
投手成績もヤクルトが良いが、両軍ともにホールドが多い。このシリーズが「救援投手勝負」であることを物語っている。オリックスの50奪三振に対しヤクルト33奪三振。オリは宇田川優希、山﨑颯一郎、ワゲスパックと155km/h超の快速球を投げる救援投手が活躍した。