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「感想戦…まるで親友」藤井聡太も永瀬拓矢も「名刺交換してくれた!」“神対応”の高見泰地も…名人戦・棋士の素顔にマンガ家が感動した理由
posted2025/04/29 11:07

名人戦第1局後の感想戦。藤井聡太名人、永瀬拓矢九段ともに対局中とは打って変わって表情がほころんでいた
text by

千田純生JUNSEI CHIDA
photograph by
NumberWeb
ざわめいた「8一飛」と、藤井名人の言葉
藤井聡太名人と永瀬拓矢九段が戦う第83期名人戦。東京の椿山荘で行われた第1局の様子をイラストに残すために現場取材を敢行しました。2日目も日が落ち、夕食休憩が明けたのちに雨が降り出し、美しい日本庭園がより幻想的になった夜に……取材控室ととなり合わせだった検討室から驚きの声が上がりました。
「こ、この飛車……何なの?」
「全く考えていないよ」
「いやー……頭の片隅にもなかったー」
「藤井さんの予定だったのかな」
YouTubeの「将棋・囲碁ch 毎日新聞」を見直すと、AIが指し示す手としては3番手で、評価値的には〈ほぼ互角〉に。「これは検討、やり直さないといけませんね」と言ったのは、確か勝俣清和七段だったでしょうか。以降、それぞれが検討する声のトーンがさらに熱を帯びてきました。
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自分たちの想定してない局面が起きたら、探究しなければならない。棋士としての使命に駆られる瞬間を目の当たりにしたことに心を突き動かされました。
「最初は6六角と思っていたんですが、玉が中段に来られると……先手玉の急所を突く手がわからなかったのですけど。8一飛自体は……そうですね、詰めろになっていない手なので、上手く攻められたら負けてもおかしくないですし、怖い局面だなと思っていました」
対局直後の藤井名人のコメントです。こういった葛藤を持って指したにもかかわらず、永瀬九段の厳しい寄せをかわし切り、「37手詰め」という長手順の詰め筋へと持ち込みました。〈分岐が複雑なうえに盲点だらけ、しかも長手数、なにもかもが異次元だ〉と文春オンラインで執筆された勝又七段の記事を拝読しましたが――藤井将棋の一手一手に誰もが注目している。そのことが検討室のざわめきから、手に取るようにわかりました。
永瀬九段の背中からは無念さがにじみ出ていた
「そろそろ、近くへと移動しましょう」
終局直前、このように声がかかり、対局場である数寄屋造りの料亭「錦水」の広いスペースへと向かい、終局の時まで待機。