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なぜ日本バスケは「隠す」ことをやめたのか? 日本代表の弱点まで記された“146ページの東京五輪レポート”を世界に公開した理由
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/09/12 08:21
東京五輪の結果をまとめたテクニカルレポートを世界に公開した日本バスケットボール協会。男子代表、女子代表、3x3男女代表の戦いが克明に記されている
テクニカルレポートはいわば、日本バスケットボール界がひとつの方向を向き、高みを目指していくための地図のようなものだ。決してすべての道筋が書かれているわけではないが、失敗したことを記すことで同じ失敗を繰り返さないような教えにもなる。
後に続く者が新しい道を探し、先に進むためのヒントにもなる。だからこそ、限られた人しか読めないような極秘情報扱いではなく、誰でもアクセスできて読むことができるようにすることが大事だった。同じ考えや課題を多くの人が共有することが必要だった。
「やるなら中途半端に出すのはやめようと。日本の取り組みとしてデメリットは存在するかもしれないけれど、日本の大枠のスタンダード、育成からスタートするスタンダードを上げることによって世界に到達することができるので」と東野。
「公開することの怖さはありましたけれど、2016年6月に技術委員長になって、まずやらなくてはいけないこと、ミッションとして掲げていたので。結果も含めて、現状を赤裸々にシェアして継承していくっていうのも責任のうちだろうと。
このテクニカルレポートはまだ決して完成形じゃないですし、サッカーや、ほかのバスケットボールの国々からしたらまだまだだとは思うんですけれど、今の日本の人たちの思いの結集であることには間違いない。技術委員会だけの英知とか、ヘッドコーチだけに任せるという文化じゃなくて、我々みんなが日本代表だということがひとつ。そして、もうひとつは、しっかりと積み上げて文化を作ること。その2つをしっかりと形成していくっていうのが技術委員会の役割だと考えています」
“日常”を変えるためのテクニカルレポート
特に意識しているのは、レポートが育成のためのメッセージになるようにということだった。東野は続けて語る。
「そこに育成の示唆とか、メッセージ性っていうのを出すためにどうしたらいいかというところまで考えて作られたレポートです。これがどう活かされていくんだろうということも考えながらメッセージを出して、そしてシェアすることが一番大事なんじゃないかな。レガシーにしていくためにはシェアするっていうところがないと、日常を世界基準にするところにいかない。島国日本が世界を感じられる場所が世界での戦いなわけですけれど、それを持ち込んで日常を変えていくためのテクニカルレポートでないと意味がないので」
世界で戦うということがどういうことなのか。それを知っている選手やコーチは日本全体で見ればごく一部だ。しかし、こうやって細かなレポートを公開することで、世界を直接知らない日本中のコーチや選手たちとも共有することができる。次の世代につなぐこともできる。
「テクニカルレポートが、そういうものが繋がる橋渡しの役割になるんじゃないかなって考えています」
(つづく)
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