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「一体、何が起きたんだ」23台抜き劇的勝利でMoto3のタイトル争いに加わった佐々木歩夢が、来季も継続参戦を決めた理由とは
posted2022/08/28 06:00
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
8月21日に決勝が行われた第13戦オーストリアGPで、Moto3クラスに出場する佐々木歩夢が素晴らしい走りで優勝した。
予選は2番手。フロントローからのスタートだったが、前戦イギリスGPの決勝レースで接触により他者を転倒させたため、2度のロングラップ・ペナルティを科せられていた。ロングラップ・ペナルティとは、コーナーの外側に設けられた特別なルートを遠回りさせるもの。レース中にピットロードを通過しなければならない「ライドスルー」というペナルティに比べてやや軽いものだが、2度ともなればかなり大きなタイムロスを伴う。
オーストリアGPが開催されたレッドブルリンクの場合、歩夢のシミュレーションによると1回で3秒のロス、それを2回行うので計6秒のタイムロスとなる計算だった。常に大混戦のMoto3において6秒のタイムロスは、普通に考えれば優勝はおろか表彰台も無理という状況だった。だが、歩夢はそれをものともしなかった。
作戦通りの会心の勝利
とにかく速かった。好スタートを切って2周目までトップを走ると、3周目に1コーナーのアウト側に設けられているロングラップコースをこなし、コース復帰直後は18番手にポジションダウン。その2周後、2度目のロングラップでは24番手までポジションを落とした。この時点で歩夢とトップまでの差は約3.5秒。6秒よりもだいぶ詰まったのは、「前とそれほど離れていない序盤にロングラップを消化する」という歩夢の作戦が成功したからだ。
歩夢はそこから素晴らしいペースでポジションを上げ、周回を重ねるたびにどんどん順位を上げていく。10周目にはトップグループの後方6番手へ。11周目に5番手、12周目に3番手、そして13周目にはついにトップに浮上した。
この時点で残り周回数は10ラップ。タイヤが消耗して苦しくなってくるころだが、前が開けた歩夢のペースは変わらない。そのペースについていけたのは日本人の鈴木竜生だけで、やや離れてデビッド・ムニョスとデニス・オンジュの2人がセカンドグループを形成。5位以下はそこから大きく遅れていった。