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「一体、何が起きたんだ」23台抜き劇的勝利でMoto3のタイトル争いに加わった佐々木歩夢が、来季も継続参戦を決めた理由とは 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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posted2022/08/28 06:00

「一体、何が起きたんだ」23台抜き劇的勝利でMoto3のタイトル争いに加わった佐々木歩夢が、来季も継続参戦を決めた理由とは<Number Web> photograph by Satoshi Endo

会心の勝利に表彰台で喜びを爆発させた佐々木。今季2勝目は、フル参戦6シーズン目となるMoto3のキャリア通算でも2勝目となった

 歩夢は今年、出場したどの大会でも優勝争いに加わり、これまで優勝を含む4回、表彰台に立ってきたが、こんなに速い走りは初めてだった。

 劇的なレースを終えた歩夢はパルクフェルメに戻ると盛大な祝福を受け、信じられないという表情のスタッフたちに、こう言われた。

「歩夢、一体、何が起きたんだ。おまえ、すごいことやったなあ。こんなレースは見たことがないぞ」

 驚異的な走りに伏線はあった。フリー走行と予選では、スリップストリームを使うと0.5秒は縮むのに、それをせず単独走行に徹してマシンをセットアップした。ロングラップ・ペナルティに備えてのことだった。

「フリーでも予選でも、2番手以下にアベレージで0.3秒以上リードしている。23周なら単純に計算して6秒ちょっと挽回できるはず。チームにはラスト5周でトップに追いついて勝つって言ったんだよね。誰も信じてくれなかったけど」

 なによりの勝因は、レッドブルリンクが好みのレイアウトだったということ。それに加えてマシンの状態が良く、コーナーの立ち上がりで早くアクセルを開けられ、加速、最高速ともに良かった。思えば開幕戦カタールGPでも、歩夢は周囲が驚く独走で優勝にあと一歩に迫ったが、タイヤトラブルで優勝を逃していた。オーストリアはそのレースを彷彿させる速さで、2度のロングラップ・ペナルティが歩夢の勝利を一段とドラマチックなものにした。

数々の大怪我からの復調

 昨年のイタリアGPの予選で、歩夢は自身も右足踵の骨にひびが入る多重クラッシュでレース仲間を失った。続くカタルーニャGPでは、転倒した歩夢の頭に後続車が激突し、脳出血で2レースを欠場。今年もイタリアGPで転倒した際に後続車に首を轢かれ、脳出血のほか鎖骨や胸骨を骨折する重傷を負った。さらにオーストリアの前戦イギリスGPでは転倒した際に頭から落ち、脊椎の神経にダメージを受け、左手にしびれが残っている状態でのレースだった。

【次ページ】 加藤大治郎に通じる強いメンタル

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