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プロ野球PRESSBACK NUMBER
ラミレスを発掘した名スカウトに聞く、“助っ人が当たるヤクルト”は何が違う? 球団をダメにする「見ず買い」と「特別扱い」
posted2022/08/02 11:03
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph by
BUNGEISHUNJU
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ヤクルトの通訳を務めていた中島国章さんは、1987年から外国人選手のスカウトにかかわるようになった。当時の松園尚巳オーナーの「鶴の一声」で指名され、中島さんにとっては「寝耳に水」の辞令だった。
中島さんは「なんで僕が選ばれたのか、いまだにわかりません」と笑う。松園氏は1994年に逝去しており、その謎は永遠に解けないだろう。
球団をダメにする「見ず買い」
とはいえ、中島さんは通訳の立場からヤクルトの外国人獲得の問題点に気づいていた。一番の問題は、「見ず買い」をしていたことだと中島さんは言う。
「それまでのヤクルトは、日本の球団に選手を売り込みたいエージェントからの映像を何本か見て『どれがいい?』と外国人選手を決めていたんです。選手の試合を見ずに契約することを『見ず買い』と呼びます。エージェントからの映像なんて、いい部分しか編集していないわけです。球団からは『万が一、当たればいいな』程度の熱量しか感じませんでした。見ず買いを続けていくと、この球団は一生ダメだと思っていました」
しかし、日本とは比べ物にならないほど国土が広く、選手数も多いアメリカ球界で日本向きの選手を発掘するのは至難の業だった。砂漠に落ちたダイヤを探すには、あまりに金と時間がかかりすぎる。そこで中島さんが注力したのは、MLB球団との提携である。中島さんはクリーブランド・インディアンス(現ガーディアンズ)との提携を計画する。
「スカウティングやリハビリなどの業務提携を結べば、インディアンスが3億円ほどかけてデータ化した情報が見られるわけです。アメリカの球団が抱えるスカウトは大勢いて、日本から一人のスカウトが見て回って得られる情報などたかが知れていますから」
中島さんは稟議書を書いて球団上層部に掛け合ったが、年間10万ドルという経費に本社役員が難色を示した。中島さんは有名弁護士の力を借りて周到に準備して約20ページにわたる契約書を作り、ようやく球団からゴーサインを得た。それまでに5年の歳月が経っていた。